7  復活せよ!



「ふー…………なんとか成功した」



 一か八かで瞬間移動(テレポート)したが、成功したようだ。命の危機にさらされてるから真なる力が解放されたのかな?


 で、ここはどこだ。適当にテレポートしたからここが何処か分からない。私の瞬間移動(テレポート)の最大飛距離はそんな無いから、街の外に行っちゃうとかはないと思うんだけど………



「あの、重い。速く離れてくんないかなぁ!?」


「重いとかレディに対して失礼じゃあないですかね幹也さん。そんなんだから35過ぎても一向に彼女ができないんですよ」


「貴様、僕が市民を守る警官ではなかったらドロップキックをお見舞いしてたところだよ………運がよかったな。あと速く避けて」


「あ、はい」



 瞬間移動(テレポート)して先にはパトロール中の幹也さんがいてそこにダイブする形に落ち着いた。


 正直、知り合いで良かったー。他人だったら瞬間移動(テレポート)した瞬間見られて結構危なかったからね。



「幹也さんの上に乗っかってる場合じゃなかった!とりあえず家に戻らないと」


「そうだよそうだよ、速く帰れ。てかこんな夜中に何してんだよ君は」


「ちょっと人捜ししてたら本人の死体とぶち当たりましてね。かくかくしかじかで逃げてきました」


「ふーん……………………………ん?今なんて言った?死体?」



 とりあえず家に戻って、あの趣味の悪い杖を回収しなければならない。


 何だったか………アスクレーピオスの杖?だったか。マーリンさんの言葉が真実であれば、あの杖を使ってマーリンさんを生き返らせることができる。


 死んでから何分までとか限られた者にしか使用できないとかあるかもしれないが、もうこの際賭けだ。あの白マスクを撃退するためにはマーリンさんの力が必要なんだ。


 あ、てかあの白マスクはどうしよう。仮に杖を持って現場に戻ったとして、待ち伏せされてたら今度こそ勝ち目がないし、行く途中に見つかったら周りを巻き込みかねない。


 相手は銃を所持した超危険人物だ。場合によっては、爆薬など持っていても疑問には思うまい。



 あー刻一刻と時間は過ぎてるんだどーしよー!!私を守ってくれる超強い騎士様(ナイト)でもそこら辺に転がってないかなー。



「おい、聞け!聞けってー!!」



 もうこの際警官とかでもいいからさー…………………………あ。



「ん?」


「……………二百円でちょっと命張ってくれません?」





#######






 ポケットから家の鍵を取り出してゲンカンノドアを開ける。


 ただいまー!…………って誰もいないんだけどね。とりあえず急げ急げ。


 えーっとどこに置いたっけな。確かクローゼットの中に入れてはず…………あった!


 服とか物とかが入ってるなかで、一際異色を放つ代物。まぁオカルト大好きな人じゃあなきゃ普通のJKが持ってる訳ないないわな。


 蛇のミイラが巻き付いた木製の杖、アスクレーピオスの杖。無事回収いたしましたー。パチパチ。



 で、問題はここからなんだけど。あの白マスクに見つからずにマーリンさんの死体を回収できるかだよね。



「あのさ、勝手に人を家まで連れてきておいて何も事情を話さないってのはどうゆう了見なんよ。普通に公務執行妨害で逮捕するけど」


「事情なら説明したじゃないですか。人捜ししてたら本人の死体とぶち当たって変な銃持った人が私を追い掛けてるから護衛して欲しいって。ほら二百円あげたじゃあないですかしつこい人ですね」


「うんごめん全く分からないな。あと二百円ぽっちで人が動くと思うなよ」


「まぁそんな硬いこと言わずに、愛する市民が命の危機に犯されてるんですよ。だから黙って巻き込まれろ」


「警察は明確な証拠と犯行とその他諸々がないと動けないんだよ!」


「じゃあ行きましょうか」


「人の話を聞けぇ!!」



 

 杖を筒状の袋に入れて手に持つ。さすがに目立つからね。目立つと言えば私の髪の毛の目立つな………。どうやらあの白マスクは私を厄災の一族だとか言う白髪赤目の人達と勘違いしてるようなのだ。



 帽子を被り、いつぞやか柳から貰ったサングラスをつけ出発進行。ガヤガヤうるさい幹也さんをほっといて、とりあえずあの路地裏まで歩く。




「…………そう言えば、やけに静かですね」


「そりゃ深夜だしね。人が少ないのは当たり前じゃないか」


「いえ、そうじゃなくてですね………。一応、千里眼を発動させながら進んでるんですけど、人っ子一人見当たらないんですよね」


「君の超能力の精度は信用できない。どうせまた見落としてるだけじゃないの…………?」

 

「失礼ですね、これでも千里眼はかなり使えてる方なんですよ。なんかこう、ここだけ人が寄りつかないよう何か施されてるような………」


「もっと具体的に物を言ってくれよ。シュールストレミングでも置いてあるのか?」


「確かにそれは誰も寄り付きませんね………とにかく、なんか違和感があるんですよ」



 私がそう呟いた時だった。


 千里眼が何かを捉えた。それを見た瞬間、私は幹也さんの手を引っ張って脇道に隠れる。


 ダダダダン!!と銃弾がコンクリートに突き刺さる音がした。肝が冷える。あと数秒遅れていら二人とも蜂の巣だった。


 こんな人っ子一人いない場所で、銃で私を狙ってくるやつと言えば、



「やっぱり出てきましたか!クソ白マスク!!」


「粛正の時だ。即刻、無様のその醜い血を撒き散らし死ぬが良い!!」



 プシュュゥ!!と、靴に搭載されたエンジン?が吹き出し始めた。ジェットエンジン的なあれだろうか。


 民間の屋根から飛び上がり、手持ちの銃をショットガンに切り替え、射出!!



「ええいこうなったらやけだ!」


「幹也さん!!」



 スパン!と、幹也さんは盾で銃弾を薙ぎ払う。


 どこから盾が現れたのかだって?それはもちろん、彼の胸元にあるワッペンからである。


 ポケットシールド。警官が持つワッペンのスイッチを押すと、薄緑の光のシールドが展開される近代技術を最大限に生かした装備だ。


 警棒なんて古い古い。今は攻めより守りの時代よ。盾を使う訓練を積んだ現代警官を舐めるんじゃない!


 

「よく分かんないけど、とりあえず殺人未遂及び銃刀法違反その他諸々で逮捕します」


「ちっ、何も知らない警官を頼ったか。即刻立ち去れ、さすれば殺しはせぬ。ここで見たものは全て忘れ、のうのうと暮らすがよい」  


「悪いけど、市民を守るのが仕事なんでね。無理なご相談だよ」


「ならば、致し方ない」



 白マスクが続けて引き金を引く。


 だが幹也さんは臆すること無く、むしろ突っ込んだ。弾を薙ぎ払い、ただの警官とは思えぬ速度で白マスクの懐に潜り込む。



「速いな。だがジェットエンジンには追いつけまい。魚は陸を走れぬし、モグラは空を飛べない」



 幹也さんが盾を叩き込む前に、ジェットエンジンを拭かして宙を舞った。


 卑怯だぞ卑怯!空飛ぶのなんて犯則じゃないか!さすがの幹也さんもこればかりは…………



「誰がモグラ、だ!!」


「何ぃ!?」



 幹也さんが飛んだ。自力で。


 白マスクの上までジャンプし、盾を上から叩きつけた。

 マジかよあの人。白マスクもそこまで高く飛んでなかったとはいえ、3、4メートルくらい飛んでたぞ。それを飛び越すって………。



「ぬぅ!?まさか貴様も魔法使いか!」


「ただのしがない警察官ですけど?」


「いや、あんな警察官がいてたまるもんですかって」


「ん?君まだいたの。速くどっかに避難してなさい。というか、どこか行く場所があったんじゃなかったのかい?」


「あ、そうだった!すみません、ここは幹也さんに任せます!!お葬式には行きますから安心して戦ってくださいね!」


「僕が死ぬ前提のプランを立てないでくれないかな!?」



 チャオ!幹也さん!死ぬなよ!!



 幹也さんが命がけで時間を稼いでる間に急げ急げ!!内心結構焦ってる。幹也さんは、ただのおっさんの癖に身体能力だけは人間離れしてるから、十分に応戦できると思う。


 しかし相手は銃に加え変な科学装備。に対し幹也さんは盾一枚のみ。


 幹也さんの命は私が速くマーリンさんを蘇生するのにかかっているだろう。だから急げー!!





######






 千里眼を使って近道を通り、やっとこさ目的地まで辿り着いた。良かった、マーリンさんの死体はまだ現場に残っていた。


 早速この杖を使って……………あれ、どうやってやるんだっけ。確か、傷口にこの杖の先端をぶっ刺すんだっけ。


 

 死体蹴りみたいで何だか罰当たりだが、マーリンさんの言葉を信じて頭にぶっ刺す!!



 ブスッ!!と勢いよく杖がマーリンさんの頭に刺さると、傷口から淡い光が輝き始めた。



 あ、良かった。これで合ってたわ。間違ってたらどうしようとドキドキしてたが、少し安心した。


 だがこれで終わりじゃあない。幹也さんの命がかかっているのだ。速く復活せよ!




「………………………………………」




 ん?長くない?


 刺してからもう5分くらい経ってるんだけど。もっとこう、ゲームみたいに一瞬で生き返ったりしないの?


 おいいいい!!はよせい、はよせいよ!!あいつが来ちゃうだろうが!!



「お望み通り、来てやったぞ。これで終わりだ、厄災の一族」


「うげっ!?誰も望んでないわ!!…………というか、幹也さんは?まさか…………」


「……………あの警官マジでおかしい。弾丸素手で受け止めるし、盾をブーメランみたいに投げてくるし、ジェットエンジンを使って高速移動する私より速く動くし、なんなんあいつ………」



 白マスクが手を顔に当てため息をつく。素が出てるよ素が。



「あんなやつ相手にしてられん。というわけでなんとか撒いてきた。私の目的は貴様の抹殺だけだ。ついでに仲間の居場所も吐いて貰おう」


「…………何回も言いますけど、人違いです。もう言っちゃいますけど、私は超能力開発の実験を受けただけです。髪が白いのは実験の副作用、目が赤いのも同じです。これでどうですか?」


「ふむ………超能力開発とはにわかには信じがたい。例え超能力者だったとしても、貴様はあの警官と違い魔法使いと接触した。………十分、始末する理由にはなる」


「別に私は魔法なんて使えませんし教わってもいないですけど?そもそも魔法なんて未だに信じたくないし。…………教えて下さい、あなた達は何者なんですか」


「そこまで貴様に話す義理はない。言葉を交えただけでも温情だと思え」


「はは、そうですか。教えてくださいよ、そうじゃなきゃ死んでも死にきれません」


「しつこい奴だな。話すことはないと……………貴様、さては何か時間稼ぎをしているな?」



 ぎっくぎくぎくぎっくり腰!あ間違えた、ぎくっ!


 あぁ待ってあともう少しだから待って下さい!あと少し、あと少しだからぁ………!!




「ふ、図星だな。もうこれ以上の戯れは不要。死ね!」




 白マスクが銃の引き金を引く。死を告げる鉛玉がこちらに向かって一直線。距離が近いので躱す余地は私には残っていない。


 

 このままだと体をぶち抜かれて終わりだ。



 けど、ここで諦めたら試合終了なんだよ。往生際が悪いのが私の長所であり短所なのさ!!



「念動力(サイコキネシス)!!」


「何っ!?」




 向かってくる弾丸に向かって念動力(サイコキネシス)を発動させる。別に止めたり、操作できなくてもいい。ただ軌道をちょっとずらせればそれでいい!!



 撃ち出された弾丸は念動力(サイコキネシス)を影響を受けながら進む。軌道が僅かにずれ、私のど真ん中から外れて脇腹らへんを掠った。


 いや、結局当たるんかい!!


 

「いっづ…………………」


「ちっ、命拾いしたな。だがこれで…………」


「幹也さん!!今です!!」


「うおおおおおお!!!」


「な、貴様は警官!?馬鹿な!」




 幹也さんが背後から盾を振り回し、白マスクを壁まで吹っ飛ばす。



「ふっふっふ、何故幹也さんがここにいるのか知りたいか?知りたいよなぁ?」


「貴様らぁ…………!!」


「私は超能力者なんですよ?念動会話(テレパシー)ぐらいお茶の子さいさいなんですよ!千里眼で幹也さんのいるところを見つけて、念動会話(テレパシー)で合図を送る。これぞ完璧な作戦!」


「途切れ途切れで何言ってるかあんま分かんなかったけどな」


「うっ」



 痛いところをついてくるな幹也さんは。いいじゃん、お陰でチャンスができたんだし。



「と、言うわけで観念しろ。逮捕する」


「く、くくくく」


「何がおかしい。まさか僕のハゲ際がバレた………!?」


「え」


「違うなぁ…………最後まで油断しないことだ!!」




 白マスクが緑色のラグビーボールのようなものを投げた。


 あの形、シルエット、色。まさか、手榴弾!?路地裏とはいえ、ここは街中だぞ!?ヤバい、私達もマーリンさんの死体も危ない、守れない。あの杖が折れたら、今までの努力が水の泡だ。



「死ねぇ!!」




 ドカァァン!!と。手榴弾が火花を散らし、炸裂した。





 はずだった。





「な、に」


「やぁーやっと復活できた。あーあ首痛ぇ。死ねないってのは不憫なものだらなぁ」


「マーリンさん!!」


「よっ、弟子二号。弟子入り試験合格だ、よくやったぞ」



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