4 魔法?
柳が親を連れ回す子供みたいに私の手を引っ張る。
地味に痛いからやめて欲しい。大体、例のコスプレイヤーを探しに行くと言うが果たしてそう簡単に見つかるのものなのか?
確かにSNSなどの情報溢れる媒体を使えば、今起こっている出来事は嫌というほど伝わってくる。だが、あのコスプレイヤーは1000年以上の歴史を持つ遺物をポンと渡すような人物だ。
謎に満ち溢れてると言っていいだろう。そんな人物がネットで検索したら出てくるなんて考えたくないんだが………夢壊れる。
「さて魔里!網は持ったか?やつをおびき寄せる餌も忘れるなよ?迷った時用のコンパスは必需品だぞ」
「私達はジャングルで猛獣でも捕まえに行くのか。とりあえず邪魔だからその虫取り網戻せってかどっから持ってきたし」
柳がしゅんとした顔をする。しゅんとした顔も可愛いが今は邪魔だから置こうね。
私は適当に服を着て、スマホと財布と家の鍵をバックにつめ肩にかける。バックに入りきらない古本は柳のバックに入れて、いざ出発。
玄関に足を運んでドアを開ける。
「あ?」
「どした魔里。早く行こうよ」
「いや、なんかドアが開かなくて………なんかが置かれてるっぽい」
こんなところに物を置くなんて、投げてくる配達員じゃないんだから。ぐっと力を込めてドアノブを押す。やっと開いたドアから体を出し、何がつっかかってたのかを確認する。
「…………………………………えぇ………」
「あ、君。とりあえず腹減って死にそうだから助けてくんない?」
いるはずのない、目的の美女がそこにいた。
#####
「ゆやーはふはっはよははへりふぎへひぬはとおもっふぁ。ひななひへど(いやー助かったよ腹減りすぎて死ぬかと思った。死なないけど)」
「とりあえず喋るか食べるかどっちかにして下さい」
「いわー、まはかアヴァロンはらでたらははがへふとはおもわなはったわー(いやー、まさかアヴァロンから出たら腹が減るとか思わなかったー)」
「話聞いてます?」
捜索時間なんとゼロ秒。名探偵もびっくりな最短記録である。外出ただけで見つかったからね。ネットで見つかるより夢壊れたんですけど。
柳が気まずそうにこちらにアイコンタクトをとる。
「(ねぇ。これどういう状況?私分かんないよ)」
「(安心して私もだから。とりあえず私から話しかけてみるから)」
意を決して私は口を開く。
「すみません。とりあえず、ここに来た経緯を教えて下さい」
「ん?(ごっくん)ぷはー。ごちそうさまでした。で、ここに来た経緯?んーそうだねどこから話せばいいかな。
先日私は君に助けられた訳だけども。そんでもって君から追い出された後も色んな人に話しかけてはこの本を押しつけようとしたんだけどさー中々上手くいかなくて」
当たり前である。というか私以外の被害者を増やさないでくれよマジでよ。
「私密入国者だからさ、行く当てがなくて。現代のお金も持ってないから食べ物が買えなくてさ。とりあえず気前よさそうな君のところまで来たんだけど、玄関で力尽きちゃってさ。はっはっは」
「あもしもし警察ですか?ここに犯罪者が」
「ストップストップストップストップ!!何ナチュラルに人のこと通報しようとしてんの!?非常識だよ!」
「あんたが非常識だよぉ!!人に図々しく怪しい本を押しつけるのに留まらず密入国者ぁ!?通報しない奴がどこにいるってんだ!!」
「あれー思ったより口悪いよこの子!?とりあえず落ち着いてくれ。君どうやら私を探してたようじゃないか。何でもするから、ね?」
「……………………少し待って下さい」
私は柳の袖をクイクイと引っ張る。
私は彼女に聞こえないように柳に耳打ちした。
「(どうする?)」
「(まぁ何でもしてくれるって言ってるし、ここはお言葉に甘えて色々聞き出そうよ)」
「(そうだね。通報はそのあとからでいいか)」
「あー、こほん。とりあえずお名前聞いてませんでしたね。コスプレイヤーさん、お名前は?」
「君、私のことそんな呼び方してたのかい…………私の名前はマーリンです。よろしく」
「マーリン…………(外国にもキラキラネームはあるのか?)。ではマーリンさん。まずこの本について何ですけど………」
「それね。それは私がまだ幽閉塔(アヴァロン)に閉じ込められる前にあった魔法について詳しく書かれた本だよ。前回は説明不足ですまなかったね」
「あ、そうなんですかー。へー……………は?魔法?」
嘘でしょ?そんな………馬鹿な。
「『嘘でしょ、そんな馬鹿な』だって?」
「ッ!?」
まるで心臓を鷲掴みにでもされたかのような寒気が走った。
心を読まれた………?馬鹿な。超能力者はこの世で私一人だ。私以外でそんな不科学的なことを起こせるとしたら、
本当に魔法使い?
イヤイヤイヤイヤイヤイヤ。落ち着け私。きっと何かトリックを使ったに違いない。認めない。断固として認めないぞ私は。
魔法使いなんているわけがない。そうだよな、柳!?
「うわぁぁ…………」
柳が子供のように目を開かせていた。
柳ィィィィィこっちに戻ってこぉぉぉぉい!!!そんな悪女に騙されてはいけない!!
おおおおおちおちおちおちけつ。あ、間違えた落ち着け。
「も、もしかしてメンタリストの方だったりし、します?」
「んー違うかな」
「は……………?と、とりあえず話を戻しましょう。この本は1000年以上前に書かれた本のようですが、どこのなんの本なんですか?」
「ブリテン。今はイギリスって呼ばれてる土地で1600年前に一人の魔法使いが書いた本だ。内容はさっき言った」
「へ、へぇー………つまり、その時代の人にとっては科学現象が魔法として扱われてたんですね。それをまとめた本だと………」
「いや、ガチ。マジの魔法だって」
「そ、そんなこと誰が信じるんですか!?超能力者(わたし)に喧嘩売ってるんですか?上等だおら表出ろや!!」
「何をそんな起こってるんだよ君は………なんなら見せようか?」
「は?」
パチン。とマーリンが指を鳴らす。
すると、ボワッ!!と突然古本が燃えだした!!
「あつ、あち、あっついびっくりしたぁ!!………じゃなくておおおおい!!本、本燃えてる!1000年以上前の遺物がぁ!!」
「いいよこんなもん。他にも、よっこいしょ。代わりはあるから」
「―――――――」
マーリンは虚空に手を伸ばすと、何も無い空間から新たな古本を取り出した。
空いた口が塞がらないとか、このことを言うのだろうか。驚きの余り私は半ば思考放棄仕掛けていた。
「す、凄い!!魔法だよ魔里!!ほんとに魔法あるんだ!!」
「お、君はそこの白髪(しらが)くんと違って飲み込みが早くて助かるよ」
「誰が白髪(しらが)だこの野郎!!せめて白髪(はくはつ)っていe
「わーわーわー魔里落ち着いて。マーリンさんマーリンさん、私達感激しました!魔法は本当にあるんですね!!ぜひ、私達を弟子にして下さい!!」
私…………たち?
おいおい柳、まさか私を巻き込もうとしてるな!?そんな私の視線を気にせず柳は嬉々としてマーリンに近寄る。
「いいですか?いいですよね!?」
「いいともー!よし、まずは二人ゲット!あ、でも私の修行は中々厳しいよ?すぐ弱音を吐くようならやめて貰うからね?」
「もちろん承知の上です。ですが諦めが悪い私と、相手を必要以上にしつこくネチネチと追い詰める魔里が揃ってるです。諦めませんよ!!」
「おい、私の解説文なんとかしろ」
「じゃあ決まりだね。歓迎するよ弟子1号と弟子2号。では早速………………」
すると、マーリンの顔つきが柔らかな表情から一転する。
「ん?どうしました?」
「と、言いたいところだったんだけど少し用事ができてしまった。すぐ片づけるから少し待っててね」
そう言うとマーリンは杖を持って立ち上がる。
「あぁ、そうだ。多分必要ないと思うけど、保険としてね。弟子2号、私が前にあげた杖ってまだあるかな?捨ててない?」
「本当は捨てたいんですけど………まぁありますよ」
「――――そうか、なら、安心した。じゃあ行ってくるわ」
マーリンはバサッとローブを翻すと、体が紫の煙となって消えてしまった。
今の質問には一体どんな意図があったのか。この時の私はまだそれを知る由もなかった。
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