3 怪しい古本?
「なーんて事があったんだよ」
「ぷっはははははははははははははは!!!あひ、いひ、うっふ、ばはぁ!!」
「現役JKのしちゃいけない笑い方になってるけど、柳」
「いやーウケるねその話。恩を仇で返すとはまさにこのこと……ぷはは」
相変わらず壺の浅いやつだ。こっちは結構怖い思いをしたと言うのに………。
柳(やなぎ)。私の中学時代からの友達だ。外国人と日本人のハーフで、女性らしかぬその高身長、実に175センチの巨人。それに見合うスタイルと美貌を兼ね備え、更に運動神経抜群、まさに才色兼備な女性。…………なのだが、かなり抜けてるところがあり、この通り変な奴だ。
「そのコスプレイヤーまだこの付近にいるかなー?見かけたらぜひお話ししたい、ぷふふ」
「いや、ほんとやめといた方がいいよ。だって神話の礼装とか言って胡散臭い杖渡したり、本渡してくる人だよ?絶対関わらない方が良いって。これなら某テレビ局の集金の方がマシだよ」
「その杖ってさまだ魔里の家にあるの?」
「まさか………と言いたいけど、一体どんなトリックを使ったのか冷蔵庫にいつの間にか入ってたんだよね。しかも胡散臭い本と一緒に」
「え、何それ怖い。しかも何故冷蔵庫。もしかしたらガチの魔法使いなんじゃないの?」
「超能力者の私が言うのもなんだけど、あり得ないでしょ。魔法使いって。存在したら私のおじいちゃんが焼き払ってるって」
「それもそうか」
残念そうに息を吐きズズズとミルクティーを飲み干す柳。
魔法なんてあってたまるか。超能力者(わたし)の存在意義が否定されるようだし、なにより科学崇拝者のおじいちゃんが怒り狂いそうだ。
まぁそんなことはどうでもいい。さっきの柳の発言で思い出した事がある。
「本題なんだけどさ。その件の本、まだ捨ててないんだよね」
「え!?嘘ぉ!?早く言ってよー魔里ったらー!やっぱ魔法信じてんじゃん!」
「違うわい。ほんとは捨てようと思ってるんだけど、何だか怖くて………呪われたりしないかな。爆発したりとか」
「ははーん。それで私を呼んだと。いいだろう可愛い怖がりな親友の為にこの柳、人肌脱ごうじゃあないか」
「んな大げさな。……というか柳の場合は怖い物知らずなだけでしょ」
「そんなこと言わずに、早く見せて見せて!!」
私は床に置いてあった分厚い本を拾い上げる。辞書よりも厚く、そして随分とぼろぼろな本だ。宗教本……だとしてもこんな古いの渡すか?分厚いのは見せかけで、中身に変な仕掛けでも入っているのかもしれない。
だが何のためにだろう。彼女は魔道書だとか仕事だとか言っていたが。
「んじゃあ、オープン・ザ・セサミ!!」
「ちょ、何開いてんの!?」
「だって気になるじゃあーん!!大丈夫大丈夫、爆発なんてしないって!!」
柳が本を無警戒に意気揚々と開く。中身はほとんど英語で、しかも文字もかすんでよく分からない。予想通りところどころ破けていたり、ページが抜けていたりする。
しかも魔法陣的な図があったり、星座だったり、セフィロトの樹って言うのかな。それっぽいのが書いてあったり。意味は分からない。
とにかく首を傾げるようなものしか書いていない。
「魔里って英語できるっけ」
「へっ」
鼻で笑った。つまり、そういうことだ。しかしどうした物か。最初は、まさかと疑っていたが何だか雰囲気がマジっぽいぞ。
柳が言うには、最初のページはこんなことが書かれているらしい。
『魔法とは神秘の素(もと)であり、万物万象を起こす秘儀なり。これを習得する者は神へと至る道の一歩を踏み出し、また悪魔へ堕ちる一歩を踏み出すと同義である。それは自然、それは超越、それは心、それは星、それは創、それは干渉。それらを含めた数多の神秘を操りし者こそ、『魔法使い』である…………』
意味不明である。
「んーそうだ!ねぇ魔里、あれやってみてよあれ何だっけサイコなんちゃら」
「記憶読取(サイコメトリー)?」
「そうそうそれそれ」
記憶読取(サイコメトリー)。それは物体に刻まれた記憶を読み取る超能力だ。物体に刻まれた記憶、端的に言ってしまえば所有者がそれに込めた一番強い残滓を読み取る力と言った方が正確か。
これにより物体、そして所有者の記憶を断片的にだが調べることが出来る。ほとんど超能力が使えない私だが、これだけはなぜか出来る。理由は不明、おじいちゃんのみぞ知る。
「えー………嫌だよ疲れる。なんか呪われそうで怖いし」
「お願いだよぉー親友の頼みだからさー」
「むぅ」
私は渋々頼みを引き受け、本に手を当てて本に込められた記憶を読み取る。
「むむむ…………」
うっすらと記憶が浮かび上がってくる。次の瞬間、
「ッッ!?っが、ぎぃ、アバババババババババババババ、アアァァァァァァ!?!?!?」
「どどどどした!?」
「おえ、吐きそう………頭痛がヤバい。うごごごご……………うぷ」
「え!?とりあえずトイレで吐いてこい!!」
少女嘔吐中……………
「で、何だったの?」
「うぷ。えっとね、さっき記憶読取(サイコメトリー)でこいつの記憶を読み取ってみたんだよ」
「それで?」
「"情報量が多すぎる"。私の脳じゃ処理しきれなくてエラーを起こしたわ、お陰で吐かされたわこの野郎」
通常、記憶読取(サイコメトリー)で読み取れる情報量というのはとても少ない。その物を一年使い続けてやっと10秒記憶が読み取れる程度だ。
………だがしかしこいつは、この本はおかしい。私の脳では処理しきれない量の情報量を持っている。怨念レベルの思いが籠もってないとここまで色濃く現れることはまず無い。
そして次に考えられる可能性としては…………
「とんでもないなく長い歴史を持つ物、ってことになる」
「どのくらい?」
「私の見立てでは少なくとも1000年以上はある」
「……………はい?1000年!?」
「そうでなきゃこの情報量はおかしい。1000年とか完全に思い出の品の域を超えてるよね。マジで何なんだよ…………この本といいあのコスプレイヤーといい」
1000年以上前の物とか普通に聖遺物認定だろうが。それを持っていて、あまつさえそれをポンと軽い気持ちで渡すあのコスプレイヤーは何者なんだ。
自分で助けておいて何だけど、あのコスプレイヤーは謎が多すぎる。まず飛び回る弾丸と戦ってたしレーザー光線みたいなの撃ってたし空飛んでたし。
今時空飛ぶ車など珍しくないから、空を飛ぶまではまだいい。ここは日本だ。実弾、しかも謎技術が加わったハイパー弾丸だけは意味が分からない。
それに狙われていた意味も分からないし、あぁ考えれば考えるほど頭が混乱する!!あの時に色々聞いておけば良かった!!クソッ!!
心の中で舌打ちをしていると、柳がちょんちょんと肩を叩いてきた。
「ねぇねぇ!これくれたコスプレイヤーの人探しに行こうよ!きっと何か知ってるはずだよ!!」
柳が大きな胸を揺らして妙にはしゃいでいる。
まぁ、確かにあの人を探してこの本について聞き出すのが一番手っ取り早いだろう。
「けどそんな簡単に見つかるかなー?」
「目立つ格好してたんならSNS漁れば何かしらの情報はあるでしょ!もしこの本の秘密は暴いたら、私達偉業達成者として名をはせるよ!!」
「また子供みたいなことを…………」
「そうと決まったら早速出発だ!ほら魔里も着替えて、行くよ!」
「むぅ…………」
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