2 新手のやべー奴
おちけつおちけつ。あ間違えた落ち着け私。
目の前の光景の情報量が多すぎて理解が追いついてないから。理解が時速10キロしか出てないから!
ローブが燃えてる空飛ぶ謎の女性。
色彩豊かなレーザー。
ヒュンヒュンいいながら軌道を描く弾丸。
さっぱり分かんねぇ。
まずは謎の女性ね。ぱっと見私より年上の外国人っぽい。ローブ着てるし遊牧民みたいな服装だし、なんなの何かのコスプレ?
さっきからギャーギャーいいながらレーザー光線を放ってるね。最初は超リアルなCGかなって思ったんだけど、ずっと見てるとリアリティが凄すぎて逆に違うんじゃないかと。
というか、実際流れ弾が飛んできた。頬に掠って血が垂れるやつね。バトル漫画でしか見たことなかったけど実際あるもんなんだね、じゃねぇ!
つまりマジでアレなんでしょ!?アレがアレでヤバい感じなんでしょ!?ヤバい落ち着け語彙力が幼稚園児以下になってるぞ。
何かレーザー光線を放ってる武器らしき物は無い。手の平からピュンって出てる。魔法みたいだけど、多分体内に機械埋め込んでるんだろうね。
そんなサイボーグ野郎ならファンタジーな格好すんなよ!
次に飛んでる弾丸。あれはなんだ。いや弾丸なんだけどさ。
弾丸にしてはありえへん動きしてんのよ。普通、銃口から発射された弾丸は一直線にしか飛ばないはずでしょ?
オート機能付きのミサイルかってくらい飛び回ってる。というかあれ重力の影響とかどうなってんの?超小型エンジンでも入ってんのか弾丸に!?あの大きさにか!?
んーまぁ科学の塊みたいな存在な私だけど科学や機械に関しては専門外だからあまり深く考えるのはやめよう。
と次の瞬間だった。
ブシャァァ、と鈍い音を立てながら赤い液体が宙を舞った。
「――――あ」
思わず意味の無い声が出た。待って、マズイ、ヤバい、このままではあの人が落下してしまう。高さはざっと20メートル。10階建てのマンションと同じくらい。頭から落ちたら確実に死ぬ。
赤の他人とはいえ、人が目の前で死ぬのは御免こうむる。だがただの一般人が落下する人間を受け止められる訳がない。
ただの一般人、ならばだ。私はただのではない。超能力、成功するかしないかのリスクなんて考えてる暇はない。
やらなきゃいけない。
私は今までに無いほどの集中力を発揮して念動力(サイコキネシス)を発動させる。
(間に合え…………!!)
地面からの距離が3メートルほどの空中で、ピタリと止まった。私はそのままゆっくりと下へ降ろしていく。
女性は気を失っていた。
胸辺りから多大なる出血。ドロドロと赤い液体が流れ込み、すこし臭いがキツかった。急いで救急車を呼ぶ。
「大丈夫…………かな」
######
『ご報告します。魔法使いと思われる人物を仕留め損ねました。追跡を再開します。そして、さらなる報告が。"あの一族"と思われる人物を確認。断定は出来ませんが、特徴が一致します。魔法使いを救ったのもその者です。魔法使いの排除と共に、その人物の排除も任務に加え、続行を開始します』
######
如月魔里の朝は早い。
まぁ今日は日曜日だから二度寝したけどなぁー!!おはようございます。現在10時ジャスト、如月魔里、ただいま起床しました。
「っん、ふぁぁぁぁ。眠い…………」
借りてきた映画一気に三本も見たからか、まだ眠気が覚めない。寝癖も酷いし、多分今乙女が見せちゃいけない顔になってると思う。
あー着替えるのも面倒くさい。どうせ今日はどこにも出掛ける予定はないし、着替えなくていいか。寝間着万歳!!
…………お腹が空いた。そういえば昨日節約して夜ご飯食べて無かったからか、いつもよりお腹の減りがひどい。
まぁいつも通りの食パンでいいか。目玉焼きも追加で作るかな。
すると、ピンポーン、と音が鳴る。
「誰だ一体こんな時間に…………どちら様ですか?ってあなたは」
玄関のドアを開けるとそこには先日助けた女性がいた。あの時は慌てててそれどころじゃなかったから分からなかったが、めっちゃ美人やん…………思わず見とれてしまった。
同じ人類なのかと思うほどの美貌、綺麗にひかる黒髪。フードがついた白いローブを被っていて、彼女と同じくらいのデカさの太い杖を持っている。
やっぱ何かのコスプレなのかな………耳もなんか尖ってるし。
「あ、えと………あ、アイキャンスピークイングリッシュウェル………?」
「あ、普通に日本語話せるからいいよ」
「あ、そすか。と、とりあえず上がって下さい………」
声も声優顔負けレベルの綺麗な声だ。こんなの女の私でもキュンときちゃうじゃないか!
とりあえず彼女を家に上がらせ、居間へ案内する。居間といっても大して広くないアパートの居間だが。
「……………あのー、一体どのようなご用で?」
「いや、先日助けて貰ったお礼にだよ。その実は命を救って貰い、ありがとうございました」
「いやいやいや、私は当然のことをしたまでですよ。そんな………」
「お詫び言ってはなんだけど、これを」
お詫び!?この美女と会話出来てるだけで褒美なのに!?いいい一体何が………。
ゴクリと喉を鳴らす。
「はいこれ」
「うえ!?」
「ん?」
出されたのは私の腕と同じくらいの長さの木の杖だった。しかも気持ちの悪いことに蛇のミイラが巻かれていた。
えぇ………………。
私は何とも言えない気持ちになる。私はオブジェとかには興味がないし、蛇のミイラが巻かれた杖とか気持ち悪くて使いずらい。
もしかしてこの人の国には感謝の意に蛇のミイラを渡す習慣でもあるのか?おぉ!なんてカルチャーショック!!
………というか、この杖どこから出した?なんか某猫型ロボットみたいにローブのポケットから取り出さなかったかこいつ。
美女は何に驚いているのか分からない顔をして首を傾げる。
「………………あぁ。説明がまだだったか。君、神話とか読んだことある?」
神話を元にしたゲームをやってたりするので、たまに元ネタを調べたりするが、そこまで博識な訳ではない。
私は首を横に振った。
「古代ギリシア神話。医学の神と言われ、その卓越した医学技術はとうとう死人を蘇らせる域に至った。冥界の神様に文句を言われたゼウスに天罰を与えられて死んじゃったけど、後にその功績が讃えられへびつかい座となった人物ってだーれだ?」
「しらね」
「正解はアスクレーピオス。で、その杖はアスクレーピオスが使っていたとされる医学の象徴、『アスクレーピオスの杖』を参考にして作った礼装だ。
死人を蘇らせるには使用者も相当の技術がいるが、怪我や病気を治すのは素人でも簡単にできる。やり方は杖の先っちょを具合の悪いところに押し当てるだけ。持っとくといいことあるかもよ」
………………駄目だこいつ、早くなんとかしないと。
ヤバい、こいつはヤバい。別に神様を信じるなとは言わん。宗教とは人類が救われる為に神に願う、科学技術の塊である超能力者(わたし)とは対極に値する存在だが、その力は時に科学をも超越する。
信仰の力は凄いってことだ。
けど、けどね!?礼装とか言っちゃってるよこの人。しかもそれを私に押しつけてるし!!アニメの見過ぎか!?
「……………新手の宗教勧誘ならお断りですけど?」
「あー信じてないなその顔は。私は嘘なんかついてないのに
「あなたみたいな胡散臭いコスプレ宗教勧誘野郎の言うことなんか信用したく無いんですけど」
「いや、コスプレじゃないけど。この耳だって本物だよ?触ってみる?」
「……………結構です。その、わざわざ来てくれたのに申し訳無いんですが帰ってください」
「え?何で?杖が嫌ならこの魔道本書の方がいいか?今なら私が尽きっきりで教えてあげるけど」
「帰って下さい!!」
「待ってくれ頼むせめてこの本だけでも受け取ってくれ一応仕事なんだ頼む!」
「帰れ!!」
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