◇010/銅の見解

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 ◇010/銅の見解

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「なぁリアン。仕事上がりに付き合って貰えるか?」


 中央管轄区中央都市に構える司令部本部の片隅。6隊の執務室はそこにある。イーヴルは隊長のデスクに自分が担当した書類をどんっと置いてから、そう告げた。


「了解、僕がいつも行くお店で良いかい?」


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 イーヴルとリアンは軍事学校の同期だ。年齢も一緒。アイゼンと同様、もう9年以上の付き合いとなる。とは言え、軍事学校在籍中からリアンの傍には大概アイゼンが居た。リアンの傍にアイゼンが居たのか、アイゼンの傍にリアンが居たのかはさておき、イーヴルはそれをずっと見ていた形となる。

 軍事学校時代において、学校が決めた成績トップはアイゼン、僅差でリアンだった。次いで3番目にイーヴル。それはずっと変わらなかった。イーヴルは常にすぐ上のリアンを見ていたし、いつか出し抜くとアイゼンも視野に入れて勉学に励んでいた。結局、彼等を追い越せずにいる。


 5年間、軍学でリアンを見続けた結果、イーヴルにとって敵対してはいけない存在はリアンだと気が付いた。技術的な面を見れば明らかにアイゼンが上なのだが、戦術的な面を見るとリアンが上だと彼は身をもって知っている。

 ひとたびスイッチが入ってしまえば、リアンは手段を選ばないし徹底的なやり方を選ぶ。イーヴルにとってリアンは『柔和な顔してえげつないやつ』と言う認識だった。だからこそ、イーヴルはリアンと同隊になる事を望んだ。口にする機会はなかったが、あのえげつない戦術をまた間近で見る事をそっと望んでいた。


 軍学卒業後の初配属で、イーヴルは北方管轄区に配属された。そこで2年過ごし、軍人3年目となる直前の人事異動にて、イーヴルは北方管轄区から中央管轄区への異動を命じられた。『中央管轄区第6小隊』、何て事のない部隊だと少し残念に思う。

 北方管轄区から中央管轄区へと引っ越し、荷物もろくに片付けられないまま6隊の顔合わせの日になった。北方管轄区では滅多に着用しなかった通常軍服に袖を通し、司令部の指定された部屋へと赴く。


 ドアをノックし、返事を待ってから入室すると、そこに居たのは昇格をして小隊長になったリアンと、それを補佐するアイゼンの姿だった。


「イーヴル、久し振り」


 リアンとアイゼンはイーヴルを笑顔で迎え入れた。

 第6小隊は、所謂育成用の通過部隊だと説明されていた。その部隊の隊長が軍学次席のリアンで、副長が首席のアイゼン。そこに何故、3番目のイーヴルが配属されたのか当時は理解に苦しんだ。リアンとアイゼンは役職としての育成なのだろう。17歳であるアオイは勿論、この隊のメンバーの大半は志願兵だ。当然、徹底した育成が必要となる。

 ただ、イーヴルはずっと疑問だった。軍学出身、軍人3年目の隊長と副長とイーヴルに対して、20人の志願兵にしては勿体ない人材と、比較的若い年齢の他部隊から異動して来た7人。何とは言えないが、ずっと違和感を覚えていた。


 小さな違和感が小さな疑問に変わったのは6隊結成2年目の12月、北方管轄区での演習だった。演習終了後に知った話ではある。選定推薦査定が目的の演習だったのだが、その対象者がアイゼンだった。急な演習に焦ったものだったが、あとから思えばあまりにも急過ぎておかしいと思うべきだった。

 それが確信に変わったのは、6隊結成3年目の10月に突然アイゼンが離脱した事だった。リアンとアイゼン、それとアオイが参加した仕事の翌日、アイゼンは黙って姿を消した。あまりにも不自然な離脱。リアンに問うても『上層からの異動命令』としか回答はない。

 イーヴルは何となく釈然としなかった。だから調査をした。


 アイゼンが離脱する前日、リアンとアイゼン、アオイの3人が『管理課』と名乗る者から仕事を受けていたのは知っている。イーヴルはそれを探った。ただ、下手に探るのは危険と判断しネットワークを使うのは避け、仕事の合間を見付けては書庫で書類を探った。


 何回も書庫を探り、イーヴルは漠然とだが自分達が置かれている状況を何となく理解した。それは真相よりも5周くらい外側の状況。真相はまだ見えない。


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