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 籠城、その言葉が適切だった。広さとしてはリアンがいつも立ち寄るカフェくらいだろうか。いや、もう少し広いであろう。天井は高いものの廃墟故にいくらかの大きな穴が空き、光が射し込んでいる。瓦礫を利用し、急場とは言えバリケードが形成されていた。自分達の立場を理解した上で、警戒していたのだろうか。時折威嚇射撃をして来るところを見ると、多少なりともそこに武力がある。


「差し当たり、無理な突入はしない。現状確認をして切り込み口を探す。…上、誰か行っているか?」

「2人、行っています。黒曜さんが行っているので、的確な情報が得られると思います」

「了解、報告を待とう。出来るだけ消耗はしない様に、だが些細な事でも構わないから情報は集めよう」


 …ピピッ…。リアンの耳元で入電の音が聞こえた。


『隊長、上から見ているけど思ったよりも物資がなさそうだよ?銃器系は多少持ってはいるみたいたけど、そこまで予備マガジンがある様には見えない。…正直、何の為にここへ入り込んだんだ?と疑問になる』

「了解、そのまま監視をお願いします」


──理由など我々の知る由ではない。所詮僕たち壁は影を隠す為のもの。それを知ってはいけない。…ただ、影が深く関わらなければ良いが…。


 今後の行動の為にひとつ確認をする事にした。無線の周波数を6隊及びアイゼンの全体対象から、アイゼン個人に切り替える。


 …ピピッ…。

「アイゼン、今後の動きの為に教えて欲しい。影が回収したがっている物は、濡れたり通電したりしても問題ない物と認識して良いのか?」


 …ピピッ…。

『あまり詳細は言えないが、それは問題ない。どちらにしても回収後は破壊になる。濡れようが通電しようが、最悪破損してしまっても破片をちゃんと回収出来さえすれば問題ない』


 …ピピッ…。

「了解」


──アイゼンがくれた情報を整理してみる。回収したい物は濡れても通電しても、最悪破損しても問題ない物。そして回収後に破壊される物。相手は隣国のテロリスト。…単純に考えれば…経緯はさておきこちら側のデータ流出。多分、影は経緯も把握している筈。…装備の軽さから見て、今回は何かを起こすつもりではなく、取引を行ったと見るべきか?そしてそれに気付き、壁と影の仕事になった…と言うところか?


 リアンは深慮する。どう動くのが1番効果的だろうか。


──隣国はテロリストの資料を提供した。テロを起こし犠牲も出しているテロリスト。制圧の過程で最悪こちら側で始末されたとしてもきっと不問にするだろう。何故なら自分達で手を下さなくて済むから。寧ろ、始末してくれたら有難いくらいに思っているのかもしれない。しかし面倒なものはきちんと返すべきだ。本来であれば隣国がきちんと拘束し、罪に問い、処罰を下すべき相手。…ならばこちらは最低限の負傷だけで隣国に返してしまうべき。 これはこちらが手を下すものではない。


 無線の周波数を全体対象に戻す。


 …ピピッ…。

「壁総員及び影に通達する。現状況における想定の思惑に乗るつもりはない。当初通りターゲットを拘束をし送還をさせる。今からこれからの指示を出す。──」


 リアンは丁寧に指示を出す。


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