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 最初にテロリストと接触をしたのはアオイだった。アオイは呪符を使えないが為に、今回は実働班ではなく影であるアイゼンと共に、各班と連絡を取りつつ拘束されたテロリストの確認の為に現場へと踏み込んでいた。

 接触したのはどうやら偵察の為に動いていたテロリストの様だ。

 アオイ達に気が付いたテロリストは即座に撤退をした。それをアオイ達が追う。廃墟群の屋内と言う事もあり、足元はお世辞にも良いとは言えない。追跡しながらの発砲はアイゼンでも難しい。無線を介し、接触ポイントと逃走方向を通達する。


「──!」


 テロリストが解放宣言を行い、壁に呪符を貼り付けた。すぐには効果が出ない。時限式の呪符。テロリストにしてみれば時限式の呪符で時間を稼ぎ、その隙に仲間と合流したいところだ。だがこちらにはアオイが居る。アオイは右手のグローブを外すとそのまま貼り付けられた呪符を剥ぎ取る。


 バチ…と火花が散る。本来ならアオイを巻き込み爆発する筈の呪符、それが爆発しない。テロリストが驚くのも無理はない。


「…何?」

「残念、僕には意味がない」


 アオイが呪符破壊をする。破かれた呪符が燃え尽き消滅すした。逃走を図るが、やがてテロリストの足が止まる。彼の目の前にはアオイからの無線を受けたリアンとイーヴルの姿があった。


「イーヴル、塞き止めるよ」


 冷たく言い放ったリアンが呪符を2枚、イーヴルに押し付けた。内容を確認したイーヴルはグローブを外しそれを掲げる。イーヴルがにやりと笑う。彼はこの2枚の使い方を実践されて知っている。あのえげつないやり方を任された嬉しさに思わず笑みを零す。


 イーヴルはいつでも解放宣言を出す事が出来る。リアンはリアンでブレードを鞘ごとベルトから抜く。鞘にはロックが掛けられ、ブレードが抜けないままになっている。

 当然テロリストも黙ってはいない。1対4の状況に於いても交戦を選択した。右手にハンドガンを構えそれをリアンへと向ける。左手には呪符を1枚、解放宣言はいつでも出来る。彼にはこの状況の打破は無理だと判断出来ている。ならばすべき事は、1人でも多く敵を減らす事。


 アオイからアイゼンに、リアンからイーヴルにそれぞれ指示が届く。


『アイゼンさん、解放宣言がなされ様とした瞬間、札を撃ち落として下さい。多少の負傷は許容ですよね?』

『了解』


『イーヴル、アイゼンが札を撃ち落としたら、その2枚で制圧する様に』

『…知ってる。あれだろ?』


 アオイはテロリストの呪符を見据え、アイゼンは左手でハンドガンを構え、リアンは切り込む体勢を取り、イーヴルは改めて呪符を掲げた。


 誰が最初に動くか。


 テロリストはリアンの動きを気にしつつ、周りを巻き込む自爆を連想させる呪符で後ろのアオイとアイゼンに牽制をする。

 リアンはテロリストの武力を半減させるべく、ハンドガンを飛ばしたい。

 アイゼンはテロリストの呪符発動を阻止したい。

 アオイはテロリストの武力を半減させるべく、呪符破壊をしたい。

 イーヴルはリアンから託された呪符2枚で、テロリストの拘束に繋げたい。


 それぞれがそれぞれの思惑で動きたい。


 最初に動いたのはリアンだった。鞘からブレードを抜く事もせず、テロリストに切り込む。次にテロリストが、リアンの動きに反応して解放宣言をしようとした。だが最後まで言えず、アイゼンの撃った弾がテロリストの左手に掠り傷を負わせ、呪符を思わず手離す結果となる。

 それは一瞬の事だった。切り込んできたリアンの鞘が振るわれ、テロリストのハンドガンを確実に捉えた。同時にアオイも飛び込み、テロリストの手から零れた呪符を拾い上げ、それを無力化させた。リアンの鞘によって弾き飛ばされたハンドガンはアイゼンの足元へと飛ばされ、完全に武力を失ったテロリストは最後に動いたイーヴルの呪符の餌食となる。


「──!──!!」


 2連撃となるイーヴルの呪符。1枚目の呪符でテロリストは水浸しになり、2枚目の呪符は電撃故に行動不能と陥る。それはかつてイーヴルがリアンにされた事。ただ水と電気の性質を鑑みれば十二分に効果はあるものだった。そこそこの威力を引き出すイーヴルもイーヴルだが、そこそこの威力を持つ遠隔発動の呪符を用意出来るリアンもリアンだ。


「…リアン、お前やっぱりえげつねぇわ。俺に何て事をさせるんだよ」

「渡した札の内容がわかった上でそれをやったのなら、イーヴルだって充分えげつないさ」


 ぱしゃん…。イーヴルがぶち撒けた水溜まりにアイゼンが踏み込む。命はあるものの、水を介して全体にくらった電撃のせいで行動不能なテロリストの腕を引き上げ、所持品を確認した。何枚かの呪符とハンドガン、それと替えマガジンがいくつか。ただ、アイゼンが影として回収したかった物は出て来なかった。


「…残りのやつか」


 アイゼンは6隊の人間ではないし任務も全く別なので、テロリスト引き渡しに際して国境警備隊に姿を見られる訳にはいかない。寧ろ、国境警備隊に『壁と影』が介入する事案だと覚られてはいけない。それが上の意向。世の中、綺麗事だけで全ては済まないのだ。

 テロリストの武力を完全解除して拘束をすると、アオイとアイゼンは先にこの場から離脱をする。リアンが無線連絡を行い、回収班と国境警備隊に拘束したテロリストを引き渡すと残り2人を探すべく行動を再開した。


 …ピピッ…。

『テロリスト2人発見、状況確認を開始します。ポイントは──』

「了解。合流する」


 実際の状況は行ってみなければわからない。


「イーヴル、行こう。面倒事は早く終わらせたい」


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