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 階段を上がると、ぴしゃん…と水が跳ねる音が響いた。リアンとアイゼンを潰す側の同期生は警戒をする。自分達がここに水を撒いた覚えはない。だとすれば、これはリアンかアイゼンのどちらかの仕業。2人の性格から考えて、この先に居るのはリアン。

 同期生は更に警戒をする。リアンとアイゼン、どちらを敵に回すのが怖いかと尋ねられたら、彼の場合リアンだった。

 今日のリアンにブレード装備はないものの、ある程度の近距離戦になるとリアンは強い。近距離射撃、それよりも近くなると呪符を使って来る。器用だから戦闘の幅はかなり広がる。何よりもあの柔らかい風貌を見せておきながら、存外えげつない事を好む。普段それがアイゼンに隠れて見えないだけで、そこに気付いている人は皆無に近いのを彼は知っている。


──何が来る?


 単純に考えれば水を媒介とした電撃。だが彼を含め、ここに居る軍事学生の靴は軍靴と同等品。靴底はゴム製故に足元の電撃攻撃はあまり意味をなさない。だったら凍らすのか。それだと呪符使用者を中心とした範囲効力となるから使用者本人が見えてしまったら警戒される。近付かなければそこまでくらわない。


──何を考えている?リアン…!


 リアンの気配を探りながら階段を1段ずつ、慎重に上がり2階の踊場に踏み込んだ。


──どこから来る?


「──!」


 呪符の解放宣言が響く。ばしゃん…と同期生の頭に水が降る。同期生が上を向くと、2階と3階の間の踊場にリアンの姿が見えた。

 リアンの右手には火花を散らし、燃え尽きようとする呪符。もう1枚、胸ポケットから呪符を取り出すと、リアンの口から再び解放宣言がなされた。

 同期生の目に映ったリアンの姿、それはもう絶対的覇者の姿。手段を選ばない、遠慮もしない。彼のリアンに対する印象は間違ってはいなかった。


 バチバチ…と、リアンの持つ呪符から青白い光の筋が同期生の足元へと伸びる。それは本当に一瞬だし、勿論演習と言う事もあり威力は低い呪符を使っている。それでも全身ずぶ濡れた上に電撃の呪符は、もう軍靴の意義を完璧になくしたし、同期生の意識を落とすまで行かなくても充分行動を奪うに値した。


「…な…ん…?」


 リアンの呪符は自分に一切触れていない。そうなればリアンの使った呪符が遠隔発動が出来る呪符でしかないと考えられた。ただ、市場において遠隔発動が出来る呪符は大概高額だ。それを一端の軍事学生が手に出来るとは思えない。


──だからリアンはえげつないって俺に思われるんだよ!


 声に出して言いたいところだが、痺れて上手く声が出せない彼には出来なかった。


「何で?って顔をしているけれど、ごめんね。教えられない」


 見下ろすリアンにいつもの柔らかさは存在しない。サイレンサーが外され、床に放られる。彼の手に握られたハンドガンから、容赦なくペイント弾が発砲された。


──あと1人。


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