5/5
軍靴はゴム底だから、思っているよりも足音は響かない。リアンは水で濡れた階段を1段1段、気を付けながら降りて行く。1階まで降りるとそこにはアイゼンが待っていた。
「1階は終わったんだね?」
「まぁな」
「…あと1人、だよね」
「そうだな」
「アイゼン、気が付いた?」
「どこにだ?」
「今回、『全滅させる』のが演習終了条件だと言う事に」
「途中で気が付いた。俺もリアンも、まだ全滅させてねぇよな?」
普段一緒に行動する筈の2人が、お互いに距離を取る。
「学校側も酷いものだ。僕とアイゼンをお互いに潰させるなんて」
「まぁ、そうでもしなきゃ成績が付けられねぇんだろ」
「アイゼン、今日は遠慮なんかしなくて良いんでしょう?」
「らしいね。この際だから徹底的にやってしまおう」
「やれる?」
「余裕」
「…上等」
付き合いも5年目、一緒に行動し続けた結果としてお互いの行動のクセがわかってしまっている。仲間としては最高だが、敵対するには最悪な2人。
今日のリアンにブレード装備はない。なくともあの形状の物を持たせたら、アイゼンは間合いを詰められなくなる。アイゼンとしてはそうなる前に仕留めたい。
リアンにしてみれば、今日のアイゼンにライフル装備がないから、間合いを詰められなければ短距離狙撃での勝機がある。
「来いよ、リアン」
その一言に、リアンが左手のグローブも外し床に投げ捨てた。右手にはハンドガン、左手に呪符。アイゼンも右手にハンドガンを持つ。
親友同士とは言え、お互いに切り札を隠し持っている。
「──!」
先に動いたのはリアンだった。解放宣言を行い、呪符の効力を解放させる。風の呪符。発現位置はリアンを中心にではなく、アイゼンのすぐ目の前。遠隔発動だった。
至近距離の風圧でアイゼンに数秒の隙が出来た。その稼いだ時間にリアンがした事は、ハンドガンをカーゴパンツのポケットに放り込み、フロアの隅に立て掛けられた自在箒を手にする事。これによりリアンの間合いが広がり、アイゼンは当面ハンドガンによる短距離狙撃でしかリアン撃破の手がなくなった。
「少し長いかな。でも何とかなりそうだ」
普段のブレードは片手剣だが、箒故に穂先側の柄を両手剣の様な持ち方をする。間合いを確保、これにより、アイゼンは不用意に近付けなくなった。リアンのハンドガンはポケットの中。弾き飛ばす事も出来ない。
「アイゼンも来なよ」
アイゼンが近付けば、杖術よろしくリアンの間合いを護る箒の柄。ただ、あまり広い空間ではないから大きく柄は振るえない。
──リアンならどうする?
現状、リアンの無力化は出来ない。アイゼンの無力化に関しては、アイゼンのハンドガンを飛ばしてしまえば良い。
──リアンはあの箒の柄で、俺のガンを飛ばす気だ。
見えた。一瞬で着けられる。
アイゼンは一旦空けた間合いを、リアンの箒の先ぎりぎりまで詰める。右手のハンドガンを構え、狙撃体勢を取る。当然リアンはそれを見逃さない。アイゼンのハンドガンを飛ばすべく、柄の先で突こうとした。
──来た。
アイゼンの狙撃体制はフェイク。
箒の柄を振るう事により、リアンはすぐ体勢を変えられない。アイゼンが右手のハンドガンをそのまま落とす。箒の先はハンドガンが居た位置を通過した。
ハンドガンが落ちた瞬間、それを左手で拾ったアイゼンはロックを外しそのまま狙撃。リアンの脇腹に着弾した。
「…あ」
「制圧完了」
アイゼンが終了を宣言した。
──────────────────
──────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます