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時間を戻して、パーティー会場ではダンスもひと区切りつき皆が歓談をし始めていた。リアン達もそれぞれノンアルコールドリンクを手にすると、ダンスで思っていた以上に目立ってしまったが故に、見知らぬおば様達からの質問攻撃を受けていた。
『どこのご子息様?』
『どこのお嬢様?』
『何のお仕事をなさっていらっしゃるの?』
素性を素直に話す訳にもいかず何とか濁してはみるものの、なかなか大変そうだった。 アイゼンと菫の2人とは当然の様にはぐれてしまい、2人で探そうとするもののおば様達の猛攻を上手く潜り抜けられない。はぐれる原因を作ったのは自分達だから、あまりあれこれ言える立場でもない。
「あれ?兄さん?」
それは突然掛けられた聞き覚えのある声だった。振り向けばそこに見知ったルカの姿。
「何で兄さん、こんな所に?」
まさにルカの言う通り。家を棄てて軍人になった筈の兄が、まさかこんな場に居るとはとても思わない。しかも隣に同伴者を連れている。
「あ…ルカ。いや、仕事で…」
「仕事?それにしても珍しい。仕事でもこう言う場は避けると思っていたのに。…そちらは?」
ルカが同伴者を気に掛けた。仕事と言いつつも一緒に来る人が居る。弟として気にならない訳がない。察した同伴者が一歩前に出て、ルカに丁寧な挨拶をした。
「初めまして。わたくしアオイと申します。リアンさんの下でご一緒に仕事をさせて頂いております」
至極優雅な挨拶にルカは面食らった様な表情をした。どうやら情報整理が追い付かないらしい。ルカが知っている情報と、今しがた入って来た情報に相違が存在する。
「初めまして。僕はルカ・コーネリアと申します。…あの、兄さんの下でと言う事は、兄さんと同じ6隊の方ですか?」
「はい。同じ隊でお仕事をしております」
やはり情報に相違が存在している。
「…兄さん、ちょっと」
ルカが手招きでリアンを呼ぶと、アオイには聞こえない様に質問をした。
「兄さんの所の6隊って女性、居たっけ?男性ばかりって聞いていたけど?」
「表向きはね」
「表向き?」
「そう、表向き。男ばかりは表向き。実際には女性も居る。あとは…ルカ、察して欲しい」
「…どう…」
「アオイにも事情があるんだ。言わないでやって欲しい」
「了解」
ルカの対応力にリアンは感謝するしかなかった。ルカの事だから、他言する事もないだろう。
「そう言えば兄さん、さっきアイゼンさんを見掛けたよ。一緒だったんだ」
「あぁ、仕事で同伴しているんだ。だけどはぐれちゃって。…どこで見たんだ?」
「エントランス。2人で外へ向かっていたから、外の空気でも吸いに出たんじゃないか?」
会場の熱気を考えたら外に行こうとしたのも頷ける。10月の夜とは言え、これだけの人が集まれば熱くない訳がない。ルカに礼を告げると、リアンとアオイは揃ってエントランスへと向かった。 エントランスから外に出る。中庭へと向かう分岐でアイゼンと菫の姿を確認した。どうやら中庭を散策してエントランスへと戻って来る途中の様だ。
「アイゼン!良かった、見付けられて」
片手を上げてアイゼンに近付く。ふわっ…と煙の匂いがした。
「…アイゼン、吸うなとは言わないが女性が一緒だろ?滅多に煙草なんか吸わないくせに、こんな時にばかり吸うなよ」
嫌煙家故に気付いてしまった煙の匂い。だがリアンはその正体までは見抜けなかった。
「あぁ、それは済まなかった。菫さん」
表向きの謝罪をアイゼンはしたが、菫は全く気にしていない様子だった。
「皆様、本日はありがとうございました。無事にご挨拶すべき方にお会いして、お話が出来ました。仕事としては終了ですが、どうなさいますか?」
菫の問い掛けに皆が皆、帰宅を選んだ。
翌日、新聞にパーティー主催者の奥方が殺害されたと言う記事が載っていた。現場はパーティー会場の近く。あのパーティーの裏でそんな事が起きていたなんて、誰も想定などしていない。有意義な遺留品も特になく、闇に葬られそうな案件だった。
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