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 天井を見上げればきらきらと輝く豪華なシャンデリア。空間に流れるのは少編成とは言え生演奏のワルツ。広間の中心では鮮やかなドレスを纏った女性がパートナーとダンスをしている。ダンスをしない人達は、その優雅なダンスを眺めながらグラスを傾けていた。


 リアンとアイゼンはこの場に仕事として参加していた。しかしながら警備の類いではない。依頼を受け参加者に同伴と言う形でこの場へと足を踏み入れたのだが、何がある訳でもなく彼等はそれなりにパーティーを楽しんでいた。とりあえず何もせず楽しむ訳にはいかないな…と思い、行動を起こしたのは6隊隊長だった。


「お嬢さん、僕と一曲いかがですか?」


 場の空気を考えればダンスをしない方が不自然だ。そう判断し、一緒に仕事をしている同伴者に声を掛ける。同伴者はその声掛けに応え、隊長の手を取りダンスの場へと出た。 鮮やかなサファイアブルーのホルターネックドレス。裾は広がり、ターンの度にふわりと舞い上がる。背中は見えないタイプだしかなり長めの手袋をして、他の女性に比べたら明らかに露出は少ない。それでもきらきらと輝る纏め上げられたプラチナブロンドの髪と、ドレスと揃いの蒼い瞳に皆の目が惹かれていた。

 パートナーとなるリアンはすらっと姿勢も良く、きちんと相手をリードする。正装である燕尾服を着こなした伽羅色の髪の男とサファイアブルーのドレスの『お嬢さん』は、ぐいぐいとセンターを取りに行く。動けば動く程、彼等は注目を浴びて行った。


「…ねースミさん。あいつら、何なんですか?」

「リア君は本物だとは知ってはいたけれど…アオ君はアオ君で凄いわね…」


 2人を少し離れたところから眺めつつ、ノンアルコールドリンクのグラスを傾けていたのはアイゼンと菫の2人だった。菫が懐中時計で時刻を確認する。19時38分。


「そろそろ時間ね。アイ君、あの2人が注目を集めている間に行くわよ」

「はいよ」


 空のグラスを返すと2人は行動を開始した。


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 パーティー会場から抜け出した2人は闇へと紛れる。菫のドレスもアイゼンの燕尾服も黒だから、紛れるのは容易だった。目立たない様に会場から少し離れた場所へ2人は向かう。待ち合わせだった。場所は暗がりの路地裏。


──『スミさん。で、仕事って何をする?』


 2人が路地の奥に視線をやれば、もうそこに先客が来ていた。着ているドレスが目立たない様に上着を羽織り、手には鞄が1つ。


──『取引に見せ掛けた…』


「奥方様、お早いお着きでしたのね?」


 菫が前、アイゼンが後ろになる様な形で客人を見据えた。


「早速ですがお取引を始めましょうか?」


 菫は手持ちの小さいバッグの中から1通の封書を取り出し、奥方に見せた。フラップを開け掌に中身を落とす。それは1枚のメモリーカード。それを掲げ相手に確認させる。再びメモリーカードを封書に戻すと、菫は奥方に近付いた。


「私が貴方にお渡しする物はこちらです。ここへ置きますね」


 丁度中間辺りの位置まで進むとアスファルトの上に封書を置いた。そのまま踵を返すと、菫は元の位置まで戻る。


「貴方はその鞄の中身を私に見せてから、封書の横に鞄を置いて下さい。そうしたらその封書を手にして構いませんよ?」


 奥方は菫の指示通りにまず鞄を開け中を見せた。中にはそれなりの量の紙幣が入っている。鞄を閉じるとゆっくりと進み、菫が置いた封書の横に鞄を置いた。そのまま隣の封書に手を伸ばし、封書に手を触れようとした刹那。


 …ぱしゅん…。


──『取引に見せ掛けた…抹消任務』


 乾いた静かな音が菫を掠める。出所は菫のすぐ後ろ。隠れはしないが、菫に隠される様な位置に居たアイゼンからだった。アイゼンの左手にはサイレンサーが装着されたハンドガン。それを奥方が封書を拾おうとして屈んだ瞬間、菫越しに発砲した。距離として10m程。的確に相手を仕留めた。


「さすがね、アイ君」


 屈んでいた事により、銃創は上方からのものとなる。発砲位置すら誤魔化した。 どさり…と倒れた奥方を確認し、菫は置かれたままの封書だけを回収する。アイゼンはアイゼンで、飛んでしまったたった1つの空薬莢を回収していた。鞄はそのまま触れる事もせず、置かれたままとなった。


「悪いわね。私達は別にお金が欲しい訳じゃないの」


 顔に似合わない冷たい視線を送ると、菫とアイゼンはその場を立ち去った。


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