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 …ピッ…。

「総員に告ぐ。呪符士を確保。監視及び狙撃班は撤収を──」


 アイゼンが撤収の為の指示を出し始め、リアンは現場の状況確認を行う。このあと男2人を関連部署に引き渡す。ロゼも当然関係者として一旦は身を預けなくてはならない。


「…サフィール、何で…?札、触れているのに…」


 アオイは手にしていた呪符を破棄した。バチっと火花が散り燃え尽きる。


「これ」


 アオイが軍服の袖を捲る。アオイの両手首内側には複雑は紋様が刻み込まれている。それはアオイの呪符。もう護符かもしれない。自分では呪符の行使すら出来ない呪符。


「…何て強力な札を刻み込んでいるの…?」

「だってあれだけの呪符増幅を打ち消す為のものなのだからね。生半可なのじゃあ駄目なんだよ」


 ロゼがアオイの手首をそっと撫でる。呪符増幅者が呪符無効の呪符に触れても、何も起こらなかった。呪符増幅者が安全に触れられる唯一の呪符かもしれない。


「ルヴィはどうする?このまま呪符増幅者で居る?それとも降ろす?」


 アオイの問い掛けにロゼは首を横に振る。


「私はこのままで良い。この力が活かせられるかもしれない。ここの旦那様がね、医療系の札に力を入れているの。今の札だと増幅しても1回の札行使に1人だけ10の効果しか出ない。でも現場では時間が勝負。増幅して1回の札行使で10人に1の効果を出せる様な紋様を研究しているの。とにかくたくさんの人に早く初期手当てをしたい、私はそれに賛同しているから。だから私はまだ、これを手離せない」

「わかった。僕は棄ててしまったけれど、ルヴィのこれはたくさん活かせられると良いね」


 ロゼとアオイが数年振りに手を繋いだ。子供の時、サフィールはルヴィに手を引かれ常に一緒に居た。

 グレイッシュブルーのワンピースに身を包んだサフィールと、ワインレッドのベストとボトムスに身を包んだルヴィ。今やグレイッシュブルーのワンピースを着ているのはロゼで、アオイは活動用軍服だ。


「ルヴィ、僕達もう撤収だから行くよ。落ち着いたら連絡を頂戴。僕は中央管轄区司令部第6小隊所属、アオイ。今はアオイだから」

「それ言ったら私はロゼよ?」


 2人、顔を合わせて笑った。


「また今度、ルヴィ」

「また今度ね、サフィール」


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