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 パンッ!!

 突然圧縮された空気がはぜる、そんな乾いた音が辺りに響く。直後、書斎のドアは吹き飛び、ガラスが割れる音もした。


「アオイ、ここは僕が見る。早く処理を!行け!」

「はい!」


 アオイが西側へと走り出す。一旦2階へ降り、東側から3階の残りの呪符処理を行う様だ。ドアが吹き飛んでいる以上、書斎の前を通れば軍部が潜入している事が中に悟られてしまう。それを踏まえてアオイは遠回りを選んだ。


 …ピッ…。

「潜入班より、通達。3階書斎がはぜた。ただし爆発系ではない。アオイが引き続き札処理に向かった。東側班はアオイと合流次第、アオイの指示に従いサポートを頼む」

 …ピッ…。

『了解』


 アオイを見送るとハンドガンを携え、壁に背を這わす。


 …ピッ…。

『監視2班より通達。今の爆発にてハンドガン所持の男が窓から転落。地上にて確保確認しました。隊長、安心して下さい。無事に確保です』

 …ピッ…。

「了解」


──炎を伴わない。つまり爆発ではない。突風か?


 …ピッ…。

「監視2班、書斎の中には誰が居る?!」

 …ピッ…。

『監視2班より、書斎の中には呪符士と女性がいます』

 …ピッ…。

「了解」


 男が1人窓から転落し、書斎のドアは内から外へと吹き飛んだ。突風の起点は外部ではない。書斎の中だ。


──まずいな。


 いくら狭い部屋の中とは言え、男1人を吹き飛ばせるだけの風。呪符も呪符士本人も高レベルでないとここまでの威力は出ない。片や自分達はどうだ?屋内、しかも広くない建物が故、多人数での制圧が出来ない。下手にこちらが呪符を使い、必要以上の破壊をする訳にはいかない。

 どう動くか。壁に背を付けたままそっと室内を窺う。風によって紙片と書籍がが散らばっている室内、窓から転落した男の物と思われるハンドガンが1丁、呪符士の足元に転がっている。中心には呪符士と人質のロゼ。


「もう1度聞く。あんた、何者だ?」


 ロゼは目の前を何枚も舞い散っている紙片から、瞬間的に呪符を見極め1枚手に取る。刹那、再び突風が室内から吹き出した。風と共に、廊下にも紙片が飛び散って来る。


──ロゼから風が?


 それまで1回目の突風は呪符士が起こしたものだとばかり思っていた。だが2回目の突風はロゼを中心に起きた。ロゼが舞っていた呪符を手にしたら風は起きた。彼女の口から解放宣言はなかった。


 何ヵ月か前、アイゼンから報告が上がった件を思い出す。『プラチナブロンドの女の子を中心に突風が吹いた』『年齢は20歳前後』『証言者曰く、例外』。


──まさか。


 確かめる術はまだない。


 東側からアオイが3階に上がって来た。アオイは疲れた様子を見せながらも必死に向こう側の呪符処理を始めた。アオイのすぐあとに、東側の班も上がって来る。西側からはアイゼンの班がほぼ同時に上がって来た。


「私は『お気に入り』じゃないの。貴方のお父様の協力者」


 リアンはハンドサインで東側の進行を止める。気が付いた東側班はある程度離れた場所で待機をする。西側も同じ様に止めるが、アイゼンだけはリアンの横に来て同じ様に様子を窺った。


「貴方のお父様の考えに賛同した。私のこの力が活かせられると思ったから協力しているの。それなのに貴方は何?」

「俺だって…親父に協力をしたかったさ!」

「でも断られた。違う?」

「…!」

「だって貴方は貴方のお父様と違う場所を見ている!」


 呪符士の目的が見えた気がした。


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