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「なぁ、あんた、父さんのお気に入りだってな?」
3階の書斎では呪符士がロゼと接触していた。ロゼは大人しく書斎の椅子に座っている。傍らにはもう1人の男がロゼにハンドガンを突きつけていた。
「『お気に入り』って言葉は好かないわ。私はここに置かせて頂けている代わりに、貴方のお父様が知りたがっている情報を教えているだけ」
「あんた、可愛げがねぇな。ガンを突き付けられ様が札を突き付けられ様が、顔色ひとつ変えやしねぇ」
呪符士が2枚の呪符をちらつかせる。ロゼはちらりとそれを確認すると、内容を口にした。
「…ふぅん、良く出来ている札ね。でも忠告しておくわ。それを私に触れさせないでね」
「あぁ?」
「その札、起動の札の反応を受けて起爆する札でしょ?効果は爆発。範囲は精々この部屋をぶっ飛ばす程度。もう1枚がスイッチの札…ね。設置したら機能するトラップタイプ。…でもね、そっちの起爆の札。私がそれに触れたら起動の札も解放宣言もなしでそれ起爆するよ?しかも爆発の規模はこの屋敷そのものをぶっ飛ばすくらいかしら?」
呪符士にはロゼの言葉が嘘か真実かは判断出来ない。嘘ならそれで良いがもし真実だったら。あまりにもリスクの方が大きいそれを試す程、愚かではない。
「…あんた…何者だよ…」
ロゼは意味ありげに笑う。
「秘密。何もしないなら、もう暫くは大人しくしていてあげる」
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…ピッ…。
「潜入班より総員へ。1階出入り口に設置されたトラップの呪符は呪符破壊完了。壁に貼られた呪符も処理完了。ただし見えない部分や見落としは否めないので、見掛けたら触れる事のない様に」
…ピッ…。
『本部了解』
…ピッ…。
「これより2階へと上がる。アイゼン、順次静かに突入を要請する。僕とアオイはこのまま処理を行う」
…ピッ…。
『本部了解。監視班へ通達。3階の2人の行動を逐一報告』
…ピッ…。
『監視1班、了解』
…ピッ…。
『監視2班、了解』
アイゼンは簡易デスクから立ち上がると、デスクに置かれていた携帯無線を軍服のポケットに仕舞う。それは自身に装着しているヘッドセットと連動している。自分が持つハンドガンとマガジンも確認する。出来れば使いたくはないが、状況によっては仕方がない。
「これより部隊を分ける。2人は狙撃、分かれそれぞれの監視班と行動、狙撃命令を待つ様に。5人は外で待機。状況に応じて動いて貰う。外側での呪符使用は何でもありだ。存分に使える様にしておけ。残る4人は東西に分かれ潜入する。総員、逐一の報告を忘れるな!…どの班にも言える事だが、ウチの小隊長殿は限りない無血解決を望む。怪我するなさせるな…は、まぁ無理だろうが相手方も自分達も『生きて還れ』!」
「Aye,sir!」
それぞれの特化に応じて、それぞれ分かれる。本当ならばアイゼンは長距離狙撃に特化している。だが今は指揮官代理だ。現場に入らなくてどうする。アイゼンを除いた狙撃班2人はスナイパーライフルを抱えると、監視班の元へと向かう。
呪符に特化している隊員と、それを護衛するかの様に5人が家屋正面にて待機をする。屋内で攻撃用呪符を使用するのはいささか危険を伴う。今回は制圧人数も少ないし、人質も居るので外からの援護を任せた方が良い。
残りの4人はローレンジ攻撃特化の人員だ。それぞれが3階を目指す。
リアンとアオイの2人は2階分の処理を済ませ、西側より3階へと上がった。さすがに3階の窓にはトラップの呪符はなく、ひたすらに処理作業となる。1階から合わせて20枚近くの呪符を破壊と回収をし、あとは3階、書斎より東側の処理を残すのみだった。リアンから借りたプラスチックの呪符ケースは、回収したよれよれの呪符でそろそろいっぱいだ。
アオイにも疲れが見える。触れる度に呪符の火花に曝された右手の指先はまるで火傷をしたかの様に赤くなっていた。
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