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 西端の通用口からキッチンに潜入、そこから廊下へと入っていく。廊下の西端から東端までの壁にはランダムな間隔でに2種類の呪符が貼られているのを確認する。

 東端に至るまでにいくつかの部屋が存在したが、そこにも1枚ずつ、どちらかの呪符が貼られているのを確認した。1階の窓付近には丁寧にもトラップが設置されている。不用意に侵入すれば爆発する仕組みとなっている。トラップの呪符はアオイがひとつずつ確実に呪符破壊をする。もしも窓から突入になった時、邪魔になっては困る。


 …ピッ…。

『監視1班より通達。呪符士が3階への移動を確認』

 …ピッ…。

「潜入班、了解」


 監視班の報告から、呪符士が呪符を設置しながら上階へと向かっているのを把握した。差し当たり接触する事はなさそうだ。


「アオイ、札はどうだ?」


 廊下に貼られていた呪符や部屋に貼られていた呪符は2種類。目的はまだ不明だが同じ呪符を何枚も貼るとなれば、何かしらの目的があるのだろうと推測される。


「この札も厄介ですね。こっちのも触れただけで反応するタイプの物です。この呪符は起爆装置ですね。これに触れてもここでは何も起きません。どこか別の場所にあるもう1種の札が起動の札で、それが何かを起こす…」

「つまり、この札も触ってはいけない札…か。厄介だな」

「しかも起動の札に触れたら、どの起爆の札が反応するのか、そこまではわからないです。多分対にはなっていると思うのですがどれとどれが対なのか、紋様が細か過ぎてそこまで見られません」

「…目的がわからないな」

「リアンさん、お願いがあります。リアンさんの呪符ケースを貸して下さい」


 アオイが真剣にリアンを見上げる。ただ闇雲に貸せと言っている訳ではなさそうだ。


「札ごとかい?それとも本当にケースだけ?」

「ケースだけ、お借りしたいです」


 アオイには何か策があるのだろう。リアンはタクティカルベストからプラスチックのケースを、軍服の腕ポケットからスチールのケースを取り出した。持っていて、とスチールケースをアオイに手渡すと、プラスチックケースに入っていた数枚の呪符を取り出し、今度はプラスチックケースをアオイに渡す。スチールケースを開け、入っている呪符に目をやる。


「ごめんね。少しの間、一緒に居させてくれる?」


 スチールケースの記名呪符にそっと声を掛けた。リアンの記名呪符はリアンの護符そのもの。大事にしているからこそ、記名呪符もリアンを大事にする。


「…ありがとう」


 優しい笑顔を呪符に向けてからスチールケースに無記名呪符を仕舞うと、ケースを腕ポケットに戻した。


「アオイ、どうぞ。これをどう使う?」

「起爆の札は破壊で問題ありません。でも起動の札を破壊したとして、対の札が先に破壊されていなかった場合、対の起爆の札が暴走する事が怖いです。なので起動の札は回収します。起動の札の破壊は、起爆の札を全て破壊したあとです」

「札ケースに入れるのは何故?」

「僕はもともと呪符無効者だから直で触れても問題ありません。ただ、何らかで他の人が触れたら面倒です。ケースに入れれば直での接触を防げます。あとは持ち運びの便利さですね」

「了解。さぁ行こう」


 2人は静かに行動を再開した。


────────────────


 …ヴー…ヴー…ヴー。

 本部に置かれたままのリアンの携帯が震えた。本来であればここの指揮官はリアンなのだが、現状はアイゼンだ。見るからに上層からの連絡。アイゼンは指揮官としてリアンの携帯を取った。


「…はい、アイゼンです。…いえ、リアンは指揮権を私に委ね現場の潜入調査へ行きました。…はい。…えっ?…了解しました。総員通達します。…はい、失礼します」


 リアンの携帯をそっと簡易デスクに置くと、代わりに耳に装着したヘッドセットのボタンを押し通達をする。


 …ピッ…。

「本部より総員に通達。籠城中の呪符士について、本名は──、この家主の次男との事。なお、人質の女性に関してだが名前はロゼ、この女性には何があっても呪符を触れさせてはいけないとの事だ。家屋内には複数枚の呪符が貼られている。突入、接触時にはくれぐれも気を付ける様に。以上」


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