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 …ピッ…。

「潜入班より通達。只今より潜入を開始します」

 …ピッ…。

『本部了解』

 …ピッ…。

『監視1班より通達。呪符士、2階にて確認』

 …ピッ…。

「潜入班、了解」


 アオイとリアンはハンドガンを携えると、1階西側通用口へと向かう。屋敷への出入り業者が使う場所。ロックが掛かっていない可能性が強かった。

 通用口側の窓から中を静かに窺う。特になにもなさそうに見える。リアンがドアの開口側の壁に背を付け、ハンドガンを構える。アオイはドアに身を隠す位置からドアレバーに手を掛け、静かにドアを開けた。何事もなく、ドアは開いた。

 中に誰も居ない事を確認して、踏み込もうとしたその刹那。


「リアンさん、駄目です。動かないで下さい」


 アオイが止めた。外から1歩足を踏み入れた場所には1枚の呪符が貼られていた。アオイがその呪符をじっと見る。段々渋い表情になった。


「…リアンさん、敵は手練れの可能性があります。これ、かなり厄介な呪符です。とても呪符職人がこれを了承して作成するとは思えないので、多分あの呪符士本人が作成した札だと思います」

「かなり複雑な紋様だな」

「遠隔操作とか、そんなレベルじゃありませんよ。誰かがここから踏み込んで札を踏んだり、落ちているからと不用意に触れようものなら、解放宣言なしに、それこそ地雷の様に爆発します」

「…そんな札が作れるのか?」

「こんな命令を組み込めるなんて、相当の技術者ですよ。全ての出入り口にはこの札が仕込まれていると思って間違いないでしょう」


 …ピッ…。

「潜入班より総員に通達。屋敷出入り口付近に落ちている札には何があっても触れるな。踏む事もするな。爆発の可能性あり」


 リアンは共有の必要ありと判断したのだろう。即時、総員へと通達がなされた。


「リアンさん、呪符破壊(Spell break)します」


 アオイがついさっき触れるなと言ったばかりの呪符に手を伸ばした。


「待て、アオイ!」


 当然リアンはそれを止める。触れたら爆発する呪符を自ら触れに行こうとするアオイを止めない理由はない。


「大丈夫ですよ。俺、『呪符無効者(Spell canceller)』だから。でもこれは…出来れば皆には黙っておいて欲しいです」


 ひとつ深呼吸をすると、アオイは右手のグローブを外し置かれていた呪符を拾う。バチ…っと呪符が発動するときの魔術的火花は散ったが、それ以上何も起きなかった。呪符を両手で持つと、縦に半分になる様に破った。パチパチと小さな火花が舞い、呪符が効力を発揮する事もなく燃え尽きた。

 呪符を破る事で呪符は効力を完全に失い、呪符そのものが消滅する。手順としては正当なものだ。ただ疑問が残る。


──どうしてアオイが触れても何も起こらなかったのか。


 アオイは自らを『呪符無効者』と言った。文字の如く、『呪符の効力を取り消す者』だ。だから解放宣言なしでも発動する呪符に対して、問題なく触れられる…と言ったところだろうか。


「俺、家を襲撃されて6隊に来るまでの空白期間、これの入手をしていたんです」


 アオイが左手のグローブも外し両袖を捲る。見せられた両手首の内側には呪符が存在していた。かなり複雑なその呪符は、アオイの腕にしっかりと刻み込まれている。


「これがあるから、俺は呪符無効者でいられるんです。さぁ、進みましょう」


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