旅路②


「本当にこんな所に村なんてあったのか?」

「本当っすよ!」


現在、アルフレッド達は迷いの森の中にいた。


あの後も何度か敵に襲われ、敵を巻くために野宿をしながら本来四日はかかる道のりを二日と少しでやってきた。正直、馬も人間もクタクタだ。


「霧が濃すぎて前もろくに見えねぇよ。アルフ、お前もよくこんな森の中に住んでたな」

「人が来なくて快適だった」


ギルの質問に答えながら、アルフレッドは全員の様子を伺う。屈強な兵士であるとはいえ、ギルもベンもここ数日ろくに寝ていないので疲れが滲んでいるように見える。


エミリアも大丈夫とは言っているが、疲れているようで少し元気がない。


(敵が村の跡地で待ち伏せしている可能性もあるしな)


今まずは疲れを癒やすべきだろう。


「ここから少し歩くと俺の隠れ家がある。今日はもうそこで体を休ませよう。お前らが疲れていざという時に使えないと困る」

「そうだな。ベンにはまだまだ働いてもらわないといけないからな」

「俺、過労死しちゃうっすよ~…」


げっぞりした顔をしながらベンが抗議するが、ギルは素知らぬ顔だ。

まだお喋りをする余裕があるこの二人は大丈夫だろう。問題はエミリアの方だ。


「エミー、もう少し頑張れるか?」

「ええ。でも暫くは乗馬はしたくない気分ね…」


休みもろくに取らずに馬を走らせ続けていたので、エミリアは酔い気味のようで珍しく弱気な発言をしている。


「今日は風呂にも入れるし、ベッドでも寝れるから、あと少しだけ我慢しろ」

「お風呂、一緒に入ってくれる…?」

「入らな…」


拒否しようとしたら、エミリアが目を潤ませながら見上げてきた。その顔は、こちらが申し訳なくなるので辞めて欲しい。


「…背中は流してやる」

「約束よ?」


メイドや侍女が居ないので、エミリアの世話を焼く人がいないので仕方ないだろう。そう自分に言い聞かせる。


「隊長、お風呂も一緒に入るのは普通なんっすか…?」

「ベン、お前にはその話はまだ早い」


後ろでギル達がコソコソ何か話しているが、アルフレッドはもう否定する元気もなかった。もう勝手にしてくれ、そんな投げやりな気分だ。



♢♢♢



「入れ、ここだ」


森の奥深くにあるアルフレッドの隠れ家にたどり着いた。つい最近まで住んでいたはずなのに、この家に来たのは数年ぶりのような気持になる。


「よくもまあ、こんな家作ったな。四年間暇だったのか?」


ギルが少し嫌味っぽく言ってくる。言ってはこないが、アルフレッドが四年間音信不通だったことを実は根に持っているのではないかと最近思う。


「快適に過ごしたかったからな。部屋は二つあるから、そっちお前らが使え」


アルフレッドの言葉にベンがすぐさま動き、部屋を確認した。すると、顔を輝かせ振り向く。


「やった!ベッドがあるっすよ隊長!どっちがベッド使います!?」

「お前、仮にも上司なのに、俺をソファーで寝かせるつもりか?」

「そんなあ…なら、俺達も一緒に寝ましょう!」

「ふざけるな」

「いたっ!」


冗談っすよ、そう言いながらベンは頭を殴られた頭を抑えている。


「飯の調達は、お前らに任せていいか?ベンは森の歩き方、森の中の食べ物にも詳しいだろ」

「俺が住んでた場所は、ここ程動物いなかったっすよ。でも、森の中の歩き方は分かるんで、大丈夫っす!」


同じ森の中でも、場所によっては動物が居ないだなんて気づかなかった。ベンが住んでいた村の場所とはいったいどういう所なのだろうか。


「さあ、一度休むと動きたくなくなるからな、さっさと行くぞベン」

「うっす!」


外に出ていく二人を見送ると、アルフレッドはエミリアの居る部屋へと戻った。先に部屋に行き休むように言っていたのだが、ちゃんと休んでいるだろうか心配だ。


「…何をしているんだ」


部屋を開けると、そこには部屋を物色しているエミリアが居た。

部屋中の扉と引き出しを開けたようで、部屋はなぜか荒れている。


「何か、アルフの隠された秘密が無いかと思って」

「そんなもん無い」


意味の分からない理由で部屋を荒らすのは辞めて欲しい。それに、何か知りたいのなら本人に聞いて欲しいもんだ。


「食べ物の調達はギル達が行ってくれた。お前は風呂にでも入って旅の疲れをとっておけ。明日も動くから疲れるぞ」

「分かったわ」


そう答えたエミリアは、ぴったりとアルフレッドに寄り添った。これは何のつもりだろう。


「何だ」

「お風呂、行きましょう?」

「背中を流してやると言っただけだ。さっさと入れ」

「一人で服を脱げないわ」


そういえば、前一緒に入った時も脱げないと言ったので、アルフレッドが脱がすのを手伝ったような気がする。


(これだからお嬢様は…)


自分で脱げない服を着るな。そう言ってやりたいが、相手はこの国の時期女王様だ。服など自分で着脱する機会は無いだろう。


「分かった。手伝ってやるから行くぞ」


俺は何をしているんだろうか。そんな事を思いながらエミリアとお風呂へと向かった。


















「た、た、隊長っ!本当にお風呂入ってるっす!」


俺どうしたらいいんすか、となぜがベンが動揺していた。お前が動揺する理由は無いだろと言っても無駄だろう。


「いいかベン、大人には色々あるんだよ」

「大人…俺、今十九っすけど、隊長達のように二十歳超えたら分かるんっすか…?」

「ああ、大人ってのはそんなもんだ」


愛らしい馬鹿のベンは、なるほど~と勝手に納得をしてくれた。こういう所は扱いやすくて楽だ。


(いや、まさか本当に一緒に入ってると思わなかったな)


ギル達が食料を調達して戻ると、アルフレッドとエミリアの姿が見当たらなかった。どこかに出かけたのだろうか、そう思いながらベンと二人で家の中を歩き回っていたら、風呂場から二人の声が聞こえた。そしてベンがなぜが動揺し始めたという事の次第である。


しかし、本当にただ一緒にお風呂に入っているだけのようで、変な声は聞こえてこない。アルフレッドの忍耐力には感服だ。


(あんな美人でナイスバディが目の間にいたら普通はなあ…)


こんな話を本人に振ったら殴られること間違いなしなので言いはしないが、いつかポロリとお前の性欲どうなってんだ?と口にしてしまいそうだ。


それよりも、ここには馬鹿…ではなくピュアなベンが居るので、あまり刺激的なことは控えてもらいたい。父親がベンを拾ってきてから、ギルはずっとベンの面倒を見てきた。生き残るための術は教えてきたが、恋愛方面に関しては何も教えていない。


(いや待てよ、もしかしたら俺が知らない間に学んでいる可能性も…)


「ベン、お前好きな人はいるのか?」


自分が過保護になっているだけかもしれない。そう思ってベンに話を振るが、予想通りの答えが返ってきた、


「好きな人っすか? ギル隊長でしょ、マーヴィン先輩でしょ、キャロウ先輩でしょ、ホレス先輩でしょ、あと食堂のおばちゃんと…」

「すまん、聞いた俺が馬鹿だった」


何っすか?とキョトンとするベンを放って置きながらギルは反省を始める。少しでも知識を与えておくべきだった。帰ったら恋愛方面の教育を始めよう、そう決意する。


「さ、俺達は飯の準備を始めるぞ。キッチンがあるから、俺が美味しい料理作ってやるよ」

「やった!俺、肉血抜きしてくるっす!」


どうせ明日からまた過酷な旅だ。それに、そろそろ戦闘は避けられないだろう。

今後に備えて体力を温存するのも大切なことだ。


よしっ、と気合を入れるとベンは料理を始めた。


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