第11話 発見①
家を出たばかりの
(時間もあるし、天気もいいし、歩くか……)
そう思った楓は駐車場を出て歩いて映画館へと向かった。ゆっくり歩いていたにも関わらず、映画館には待ち合わせの時間よりも15分ほど早くに到着してしまった。
手持ち無沙汰に綾乃のことを待っていると、ふと不安に襲われる。
(沓名さん、来なかったらどうしようか……)
何度もチラチラと駐車場の出入り口に目をやってしまう。
何度目になるか分からない視線を投げた時、1人の人影かこちらに向かっているのが分かった。その人影は急いでいるようで、早歩きでこちらに向かってくる。それが
綾乃は普段の接客で見せるエプロン姿とは違う、女の子らしい恰好をしており、楓はそれが綾乃に良く似合っていると思った。
そんなことを考えていると、目の前に息を切らせた綾乃がやって来る。
「お待たせ、しました……」
「慌てなくても大丈夫でしたのに……」
楓は自分が勝手に早く来過ぎていて待っていたのに、綾乃を急がせてしまったことが申し訳なく感じてしまう。そんな楓の心情を知ってか知らずか、綾乃はにっこりと微笑むと、
「お待たせしても、悪いですから」
そう言う綾乃は、書店で見せる格好とは違う女の子らしさも相まっていて、楓は直視できずにいた。不自然に顔をそむけてしまう楓は場を誤魔化すように、
「まだ少し上映時間までありますが、中に入りましょうか」
その言葉を聞いた綾乃が頷くのが目の端で見えた。楓は綾乃を連れてエスカレーターで2階の映画館へと向かう。その間気の利いた会話1つもできない自分が、何だか情けなく感じてしまうのだった。
そのまま映画チケットの券売機の前に並ぶ。並んでいる間も気の利いた会話が出来ない楓は、綾乃が自分のことをつまらない男だと思っていたらどうしよう、とマイナスに思考が行ってしまう。
何か話題がないかを探っている間に自分たちの順番になってしまう。券売機に向かって観る映画を選択していると、綾乃がバッグの中から財布を取り出そうとしていた。それを見て楓は内心焦りながら、
「ここは僕に出させてください」
そう言って急いで支払いを済ませてしまう。綾乃が今どんな顔をしているのか見るのが怖かったものの、座席を決める画面になり、
「どの席が、いいですか?」
そう綾乃へと声をかける。楓の言葉を聞いた綾乃は少し恥ずかしそうにしながら、
「私、映画ってあまり観に来ないんです。なので、天野さんに任せてもいいですか?」
そう言う綾乃は本当に映画館へはあまり足を運ばない様子だった。
平日の昼間で公開からも日が経っていたこともあり、映画が良く見えそうな真ん中の席が空いているのが確認できる。楓はそこを2席隣り合わせで予約した。館内の時計を確認するとまだ上映まで時間がある。
「沓名さん、何か飲み物とか食べ物でも買いましょうか」
綾乃が小さく頷くのを確かめた楓は、売店へと移動をした。楓と同じように、上映時間までの間に買い物をしようとしている人たちの列が出来ている。
「沓名さんは、何にしますか?」
「飲み物だけにしようかなって」
綾乃に何を注文するかを聞きながら、自分も何を頼もうか考えつつ言葉をかける。
「天野さんは、良く映画を観に来られるんですか?」
その問いかけが楓には突然のことで驚いてしまう。咄嗟に、
「そうですね。実写化が決まったものは、結構観に来ています」
綾乃の顔を見ることもできずに答えてしまってから後悔する。これは会話を続けるチャンスだったのではないか。しかしもう出してしまった言葉を引っ込めることはできない。後悔と情けなさを感じていると、列が進み自分たちの購入の番になった。
綾乃が隣の別のレジへと行こうとするのを見て、楓は慌てて引き留めた。
「一緒に頼んでください、沓名さん」
綾乃は一瞬迷ったような様子を見せるが、傍に来てコーラを頼んでくれる。楓はと言うと、ポップコーンとコーラを注文した。
店員が後ろを向いて注文した商品の準備を始めると、綾乃がおどおどした様子で口を開いた。
「あの、お金を……」
その姿が
「大丈夫ですよ。ジュース代くらい、出させてください」
そんな会話をしていると、用意できた商品を店員が差し出してきた。楓は自然とそれを持ち上げる。
売店を後にすると丁度自分たちの観る映画の入場アナウンスが響いた。楓はなるべく歩幅を綾乃に合わせるように、ゆっくりと歩きながら入場ゲートに綾乃を導いて、席へと案内していく。
席に座った楓は、普段映画を観る時には全く気にしなかったことに気付いた。
(席が、近い……)
すぐ隣に感じる綾乃の存在を、楓は意識せずにはいられなかった。
そんなことを考えているとすぐに館内が暗くなって上映が始まった。最初に始まる予告をなんとなく眺めながら、しかし意識は隣の綾乃へと向いてしまう。
横目で綾乃を見てみると、目をキラキラさせながらスクリーンに見入っている。
本編が始まっても、綾乃のその様子は変わらなかった。完全に映画の中に入り込んでいる様子の綾乃に、楓はほっこりと胸が暖かくなるのを感じていた。
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