第8話 寄り道

「ごめんなさいね。お見舞いにも付き合わせちゃって」


「いいよ。別にこれくらい」


 あの後僕とこころさんは病院に来ていた。

 ゆかりさんのお見舞いということで来ていたが、女の子ということもあり、僕は中には入らず部屋の外で待ってるという感じしていた。

 そして今、僕たちは帰路を辿っている。


「そう言えばこころさん。ゆかりさんってどれくらい入院生活を送ってるんですか?」


 僕はこれまでの人生の3分の2以上を病院で過ごしてきた。だからなのかこんなことを聞いてしまう。

 こころさんは少しだけ考える素振りを見せた後に、


「かれこれ1年くらいかしらね。」


 1年、か。僕に比べれば短いが1年もゆかりさんは病気で入院していると言っていた。どんな病気を患っているかは分からないが1年も入院しているのだからけっして楽な病気では無いのだろう。


「ねぇ、どうしてそんなことを聞くの?」


「いや、前にも言ったけど僕も今までほとんど入院生活だったからさ、身近な人にそういう人がいるとちょっと気になっちゃっただけだよ。」


「そっか、砺波君も入院生活送ってたんだもんね。」


「はっきりいって今日病院行くのかなり怖かったんだよ。」


 僕は勝手に病院を抜け出してきた。きっと看護師さん達も驚いただろう。サングラスにマスクをつけるなどのそしてなりより変装して言ったとはいえ看護師さん達にバレないか心配だった。


「変装していたしバレてなかったわよ。」


「それでも怖かったものは怖かったんだよ。」


 あえて例えるならば、学校に忘れ物をして夕方の生徒はみんな帰っただろう学校に忍び込む。そんな感じだ。


「でもバレなかったんだから結果オーライよ。」

 

 そういうものだろうか。

 何だかよく分からないがこれ以上言ったら口論になってしまいそうなのでやめておくことにする。

 

「こころさんは僕といる時間は楽しい?」


 唐突の僕の質問にこころさんは少し驚いたような表情を見せるが直ぐに


「そりゃ楽しいわよ。いつもひとりでチェスして、クラスでは後ろ指さされて悪口言われて『あぁ、私は一生1人で生きていくんだな』って思っていた所に砺波君、あなたが現れて私を孤独から救ってくれた。だから今の生活が楽しくないわけなんかない。」


「僕もこころさんといる今の生活が楽しいよ。」


 今夜は今まで1番幸せな気がする。それを裏付けした証拠なんてない。でもなぜか不思議とそう思えてしまうくらいに私は今を楽しんでいる気がする。


 



 

 


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