第4話 偶然

 こころさんとの半永久チェスを終えた僕は今駅前まで来ている。

 因みに僕に家族はいない。数年前に亡くなっている。その時僕は病院生活を送っていた為大体の私物は病院の方にあった。

 だから、両親が亡くなると一緒に家も無くなった。

 こころさんにはこの話はあえてしなかった。でも、僕の心を見られていたら終わりなんだけどね。


「あら、こんな所で何をしているの砺波君。」


 そう僕に声をかけてきたのはこころさんだった。


「そういうこころさんこそ何をしているですかこんな時間に。」


「私はゆかりのお見舞いの帰りよ。」


「それで貴方はなんでこんなところに居るの?早く家に帰らないと親が心配するんじゃないの?」


 本当にこころさんはあんな能力を持っていなければ好かれていただろう。なんせ、ただのチェス仲間と言えるかどうかも分からない僕の心配までしてくれるんだ。だが、僕には親もいないし帰る家もない。だからこそこころさんに隠し事をしている事に罪悪感を抱いてしまう。


「こころさん。実は僕には帰る家がないんだよ。」


 だから僕は本当のことを言おうと思った。


「えっ!?じゃあ、貴方のご両親にはちゃんと連絡はしているの。」


「僕の親はもう死んでいる。それに元々僕は入院生活をしていたから病院が家みたいなもんだったんだよ。」


 こころさんがより一層驚いた顔をする。


「じゃあ、病院に戻んないといけないんじゃないの。看護師さんとかも心配してるんじゃ…」


 そこまで言ったこころさんの言葉を遮るように僕は


「僕はもう病院での生活にうんざりしていたんだよ。毎日が暇で暇でしょうがなかった。そして今日はたまたま体調が良かった。だから病院から逃げ出してきた。」


「じゃあ貴方今日はどうするつもりだったの。」


「ホテルとか最悪野宿をするよ。」


 ネットカフェなどもあるがあそこら辺は学生じゃあ泊まることが出来ない。


「そうなのね。」


 そう言って何か考え始めるこころさん。


「じゃあ、貴方私の家に泊まっていきなさい。」


「………えっ?」


「貴方病人なんでしょ。だったらこんな所で野宿なんかして死なれても困るから。」


「でも、こころさんの親は大丈夫なの?」


「親は今は海外で仕事をしているからまず帰ってくることはないと思う。それに私が友達を家に連れてきたっていえば追い出すどころかすごく喜ぶと思うから。」


 僕としても野宿はあまりしたくは無い。だったらこころさんについて行くことにしよう。多分家に着いたらチェスやらされるんだろうけど…。


「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。」

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