第3話 チェス

「あなたハブられてるの!?」


 こころさんはそんな驚嘆の言葉を言ってきた


「そう、僕は学校のハブられ者。って言ってもこころさんほどじゃないけどね。」


「そ、そうなのね。」


「今日だって久々に学校行ったら『誰?』っていわれたよ。あぁ忘れられるってほんとに悲しい。」


 人から忘れられた時、人は本当の意味で死ぬって聞いたことがあるけどその意味がわかった気がする。


「ねぇ。あなたこの後暇?」


「暇ですけど。」


「それならちょっと私と付き合ってくれない?」


「それはOKってことでいいのかな?」


「ふざけたこと言ってるとこの部屋から叩き出すわよ。」


 一気に真面目な顔になって退室宣言をしてきた。


「すいません。なんでもお申し付けくださいこころ様。」


「それじゃあ。貴方チェスってできる?」


「できないって言ったら。」


「気合いで覚えてもらう。」


 そんな事を普通に言ってくるこころさん。

 別に僕はチェスができない訳ではない。


「大丈夫だよ。チェスはできる。でも僕は勝負事は手を抜かない主義なんでね。」


 自分自身もなかなかに面倒くさい性格をしていると思っている。


「それじゃあ始めましょう。」


 そう言って盤面に駒を並べ始めるこころさん。僕もコマを並べるのだった。


         ◇◆◇


 結果だけを言えば僕の全勝だった。

 こころさんはチェスの知識は持っていたらしいが経験があまり無いらしいく経験者の僕には勝つことが出来なかった。

 一方の僕は入院生活を送ってたときに隣のベットの人が大のチェス好きだった為に毎日のようにやっていた。


「も、もう一回!」


 もう何度目か分からないもう一回を聞いた僕は


「こころさん。もう暗くなり始めてるし帰りませんか?」


 そう提案を出してみたのだが、


「私が勝つまでは終わらない。」


 そう言って再度コマを並べるこころさん。


(まじですか。)


         ◇◆◇


 結局あの後も何度かやったがこころさんが勝つことはなく僕の全勝で終わった。

 因みにこころさんは大事な用事があると言って帰って行った。


(勝つまでやると言ったのはどうなったのか。)


 でも、ようやく帰ることができる。

 それに出だしは上々では無いだろうか。少なくとも嫌われはしてないはずだ。後はここから距離を詰めていくだけだ。

 そう考えながら僕は完全に暗くなった夏の帰路を辿るのであった。


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