見えないもの──③

 熔炎結晶を採取した俺は、みんなを連れてその日のうちにテイマーギルドへと戻ってきた。

 今回は近い場所だったし、採取も簡単だったからすぐに戻ってこれたな。

 酷い時は、1週間も洞窟にこもったこともあったから……。


 テイマーギルドでは、いつも通りサリアさんが忙しく仕事している。

 1人で何人ものハンターを受け持っているから、基本的に休みはないとか言ってたけど……大丈夫か、ここの仕事。もしかしたらハンターより大変なんじゃ……?


 少しだけ離れた場所で待つこと十数分。

 ようやくサリアさんの手が空いたタイミングで、受付に向かった。

 いや、本当。忙しくさせてしまって申し訳ない……。



「サリアさん、戻りました」

「あ。お帰りなさい、採取の巨匠」

「それやめてもらえます?」



 確かに他のハンターよりスピードも質もいいとはいえ、そう言われるとむず痒い。



「熔炎結晶、採ってきました」

「さすかですね。……うん、どれも純度が高い。これなら、依頼主も満足するでしょう」

「あ……それでなんですけど、その依頼主に関して少しお願いがありまして」

「はい?」



 一応、周りの視線と盗み聞きを警戒して、スフィアに防音フィールドを張ってもらった。

 特にやましいことはないけど、念の為に。



「前の新月草と、今回の熔炎結晶。同じ人が依頼して来たじゃないですか。一度会ってみたいと思いまして」

「そ、それは……」



 サリアさんの目が泳ぐ。

 実は、ハンターが依頼人に直接会うのは原則禁止とされている。

 理由は明確。険悪になりがちだからだ。

 俺たちハンターは、命をかけて依頼主からの依頼をこなす。

 時には自分の四肢を失い、時には仲間を失いながら。

 自己責任なのはわかるが、それでも納得いかないのが人間というものだ。


 自分が依頼を受けたんだから、手脚を失っても文句言うな。

 自分が依頼を受けたんだから、仲間を失っても文句言うな。


 それは酷というものだ。

 だから基本、俺たちに依頼人の情報は開示されない。

 何かあった時、ギルド側はハンターを庇いきれないからだ。


 サリアさんは生唾を飲み込み、言葉を選ぶように口を開いた。



「……いくらコハクさんの頼みとは言え、それはできません。ギルドの規則ですので」

「どうしてもですか?」

「どうしてもです」



 サリアさんの目を真っ直ぐ見つめる。

 ……どうしても、譲ってくれそうにない。意志の強さを感じる。



「……わかりました。無理言ってすみません」

「ほっ……ご理解していただき、ありがとうございます」






「いえ。自分で探して訪ねますので」

「わかってないですよそれ!?」






 サリアさんがばんばんとテーブルを叩く。

 お、怒らなくても……。



「これは、ハンターと依頼主の無用な衝突を避けるための規則なんです! だめだめ! だめったらだめ!」

「だ、大丈夫です。別に突っかかったりするわけじゃないですし、ギルドに迷惑もかけないので」

「そういう問題じゃありませーーーーん!!」



 ガルルルルルッ! そ、そんなに威嚇しないでください。怖いので。

 本当、防音フィールドを貼っておいてよかった……。

 でも、どう説得したものか……悩んでいると、サリアさんはそっと息を吐いた。



「はぁ……ここまで言ってもコハクさんが引かないってことは、それなりの理由があるんですよね」

「は、はい。人類規模で、重大案件です」

「じ、人類規模……? ということは……まさか、魔王関係ですか……?」



 サリアさんが声を潜めて聞く。

 俺も一応、無言で頷いた。



「そ、そんな……!? どういうことですか……!」

「それは、トワさんも交えて説明します。今、いいですか?」

「も、もちろんですっ。さあ、奥へ。いつもの応接室で待っていてくださいっ」



 さすがにまずいと思ったのか、サリアさんが急いでトワさんを呼びに行った。



『便利ね。魔王って言葉』

「そりゃあね。魔王が復活したら、全人類が滅ぼされてもおかしくないから」



 本当は魔王じゃなくて、七魔極なんだけど……まあ魔王関連には変わりないから、いいか。

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