見えないもの──②

 結局手掛かりを見つけられないまま、3日がすぎた。

 さすがにセアばかりに構っている暇はない。ミスリルプレートとしての仕事もある。

 今日はミスリルプレートの依頼で、マグマ地帯──危険区域デンジャラスゾーンに来ていた。


 危険区域デンジャラスゾーン

 人が生身で生存することは不可能だといわれる区域だ。

 そういう意味では、毒の警告も危険区域デンジャラスゾーンだと言える。


 でもこれは……凄まじいな。

 例えるなら、マグマの海というべきか。

 今にも噴火しそうな火山と、煮え滾るマグマ。

 スフィア曰く毒ガスも充満しているし、熱気も半端ではない。下手に呼吸したら、肺が焼かれてしまう。


 今はクレアの熱操作とスフィアの防御フィールドでしのいでるけど、長時間いない方が良さそうだ。



「あわっ、あわわわっ……!?」

「セア、大丈夫だから抱き着かないで」



 あと、さっきからセアが近い。俺の腰に抱き着いて離れないし。

 魔族とわかってても、女の子に抱き着かれるのは本当に慣れないからやめてほしい、切実に。



『ご主人様、やっぱり殺しましょう』

『マグマに投げ捨てたらどうかしら』

「ステイ」



 俺の身を案じてくれてるのは嬉しいけど、それはダメ。

 さりげなくセアを引き剥がして、ライガに任せる。

 今のスフィアとクレアは、何をしだすかわからないし。



『コゥ、なに探すの〜?』

「マグマの底にある、熔炎結晶の採掘だよ。なんでも、新月草の依頼をしてきた研究者が、また依頼してきたみたい」



 事前にスフィアから熔炎結晶のことを聞いたけど、どうやらこれも薬に応用できるんだとか。

 まだ現代技術では確立されていないみたい。完全に未来の技術らしい。


 しかもこれも、悪魔召喚に使われるものなんだとか。

 偶然……だよね……? 悪魔召喚だなんて、ただの伝説だし。



「とりあえず、採掘に入ろう」



 俺たちはフェンリルの背に乗り、マグマの中へと飛び降りた。

 スフィアの展開している半透明の防御フィールド。それにクレアが、熱操作の魔法を付与してくれている。

 そのおかげで俺たちを中心に球体状にマグマが押しのけられ、肺を焼く灼熱も届かない。


 粘度の高いマグマの中を進む。

 まとわりつくような、へばりつくような。とにかく気持ち悪い感覚だ。

 正直、1センチ先も全く見えない。マグマの中とか入ったことないけど、こんな風になってるのか。



『コハク、あっちの方よ。気配がするわ』

「あっち?」

『私、熱に関するものの気配なら感じられるの。あっちの方、強い熱を感じる』



 強い熱……? どういうことだろう。

 でもクレアが嘘をつくはずもない。行ってみよう。


 クレアの案内で、ゆっくりだが進んでいく。

 と、ようやくマグマの底についた。

 当たり前だけど、岩石が溶けている。どれだけの高温なのか、言われなくてもわかった。



「クレア、この辺?」

『ええ。多分この辺……あっ』

「ん? ……ぉ、おおっ……?」



 クレアの視線の先にあるのは、天を翔ける太陽のように輝く鉱石だった。

 かといって、眩しいわけではない。包み込むような暖かさを持ち、金より金色に輝いている。

 これが、熔炎結晶。マグマの中でしか精製されない、幻の鉱石か。



「こ、コハクさん、コハクさん」

「ん? どうしたの、セア?」



 服を引っ張られ、セアを見る。

 どうしたんだろうか。かなり興奮してるように見える。

 セアも初めて見るものだから、心が踊ってるんだろうか。



「あ、あのっ、あの鉱石……!」

「セア、一旦落ち着──」






「あの鉱石からっ、見えないお魚さんの気配を感じます……!」






 …………え?



「何言ってるの? 魚じゃないよ、あれは」

「わ、わかってます! そうじゃなくて、あの鉱石を通じて感じるんです……!」



 鉱石を通じて感じるって……何を言ってるの、この子?

 でも嘘を言ってるように見えないし……。

 スフィアを見ると、じっと熔炎結晶を見つめていた。



『ふむ……推測ですが、恐らくあれは扉かと』

「扉?」

『おとぎ話では新月草も熔炎結晶も、悪魔召喚に使われる触媒です。もしかしたら、それらを使って呼び出すものが、見えない魚の正体かと』



 あ……そういうことか。

 そう言われると、なんとなくしっくりくるけど……まだおとぎ話……伝説の域を出ない。

 でもそれは、幻獣種ファンタズマのみんなも同じだ。

 伝説を否定することは、みんなを否定することになる。

 だから俺だけは、伝説を否定しちゃダメだ。


 ライガが斬撃を与えて、熔炎結晶を回収した。



「よし……ひとまず、テイマーギルドに戻ろう」

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