見えないもの──①

 みんなと一緒にさっきの場所まで戻り、辺りを見渡す。

 ……特に変わった様子はないな。

 でも、なんだろう……意識してみると、なんか不思議な感じがする。

 言葉では言い表しづらいけど、もやもやっとした違和感はある。



「スフィア、どう?」

『──やはりこの付近には魚のようなものはいません』



 やっぱり、スフィアの探知でも引っ掛からないか。

 フェンリルも地面を嗅いでは、あっちこっちをうろうろしている。

 探知に関しては専門外のクレアとライガは、俺の傍で控えていた。



「セア、本当にここ?」

「は、はい。多分……」



 多分、か。これだけじゃ、なんの証拠もないのと同じだ。さすがに探しようがない。

 スフィアもフェンリルも見つけられないとなると、いよいよ詰みだ。

 湖じゃなく、陸地にいる魚……何かのトンチだろうか。



『コゥ、何もないよ〜?』

『検索をかけても、それらしい情報はありませんね』

「そっか……」



 スフィアには、世界中の知識を検索する力がある。

 そこにない知識……つまり、まだ知識として確立されてないのか、それともそんな気配は勘違いなのか。

 いずれにせよ、ここでぼーっとしている時間がもったいない。

 かといって、見えないものを探すのは至難すぎる。


 どうしようかと悩んでいると、ライガが『ふむ』と口を開いた。



『その魚、まるで我々のようなものだな』

『あ! それ私も思った!』



 ライガの言葉に、クレアも同調する。

 確かに……ライガの言う通りだ。

 みんなの姿は俺にしか見えない。世間一般からしたら、いるかいないかあやふやな存在だ。

 つまり、いくら自分が見えない、自分が感じられないからといって、それが嘘とは限らない。


 見えないものはいる。感じられるものは存在する。

 そんなこと、俺が1番よくわかってるだろ。



「セア。まだその魚の気配、ここで感じる?」

「はい。その辺をふよふよしてる感じです」



 その辺か。ここから動かないのか、動けないのか。

 でも思った通り、セアには見えない何かを感じたり、見たりする力があるみたいだ。

 思えば新月草のときも、灯りが一切ない中であそこまで来ていた。

 それが、セアの力の一端か。


 ……あれ、そういえば……?



「スフィア。なんで俺って、みんなのこと見えるんだっけ?」

『ご主人様の魂は常人とは違い、高潔で聖なる魂です。そのため、我々の姿を見ることができます』



 そうか、そうだったな。

 つまり魂によって、みんなの姿を見られるし、感じられるし、触れられる。

 同じだ。セアも、俺に似た魂を持っているんだ。

 魔族に聖なるとかはないと思うけど。



「となると、セアの魂だけが唯一の指標か……」

『殺して魂を保管しましょうか?』

「殺すのはダメ」

「ぴっ……!?」



 俺の言葉に、セアが涙目で怯えた。

 小心者だなぁ、この子は。って、殺すとか言われたら誰でも怖がるか。



「とにかく、今はセアしか頼りがないんだ。地道に探していこう」

「……殺さないですか……?」

「大丈夫。そんなつもりはないから」

「ほっ……」



 セアが安心したように息を吐く。

 少なくとも、今は。

 もしセアのこれが演技で、俺たち人間を騙すためにやっているんだとしたら……その時は、ためらってはいけない。

 だから……そんなに懐かないでくれ。






 そこから小一時間ほどあたりを探したが、結局お目当ての魚は見つからず。

 一旦宿に帰ると、セアは疲労からかまた俺のベッドで寝始めた。

 だから豪胆すぎないかな、この子。


 スフィアがみんなにお茶やお菓子を出すと、ライガが先に口を開いた。



『見えない魚、か。一筋縄ではいかんな』

『私たちが言えた義理じゃないけど、見えないものを探すのってこんなに苦労するのね』



 俺はみんなのことは最初から見えてたけど、周りからしたらこんな感覚だったんだな。

 こんなの、確かに苦労するよ。



「スフィア、魂の複製ってできないの?」

『さすがにそれは……申し訳ありません』

「いいよ、気にしないで」



 そんなことできたらって思ったけど、無理か。

 はぁ……見えないものを探す、か。どうしたらいいんだろう。

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