末端魔族──④

 森でセアと出会い、何を聞いたのか。全てをトワさんに話した。

 トワさんは俺の話を黙って聞いている。サリアさんも、聞き逃さないようメモを取っていた。

 その間もクルシュは、セアが逃げないように目の前でガンつけている。そのせいで、セアは今にも気絶しそうだ。



「なるほど。つまりこの魔族は獄門のレトの配下。個別で動いている目的は、レトの復活というですか」

「はい。しかしセアには隷属の魔法が掛けられていて、レトに関することは喋れないみたいです」

「隷属の魔法……主人に対する裏切り行為があった場合、対象者を死に至らしめる魔法ですね」



 流石トワさん。魔法についてもよく知っている。

 だけど油断していないのか、セアから視線を逸らさない。

 それどころか自身に身体強化魔法を掛けてるし、クルシュにも掛けている。完全に臨戦態勢だ。



「ヒェッ、ヒエェッ……!?」



 うーん、流石に可哀想になってきた気がする。



「トワさん、ここまでビビり散らかしてる相手なんですから、そこまでしなくても……」

「甘いですよ、コハクさん。魔族は狡猾。これも演技かもしれませんから、油断は禁物です」

「は……はい……」



 確かにそうかもしれないけど、セアに関してはなんとなく大丈夫な気もする。

 俺に危機感がないだけかな……?



「それでコハクさん。この魔族を連れてきたということは、何か考えがあるんですか?」

「殺す必要はないと判断しました。むしろ利用価値があります」

「……話してください」



 俺の言葉に、ようやく気を収めたトワさんとクルシュ。ソファーに座り、クルシュはトワさんの膝の上に乗った。



「隷属の魔法が掛けられている以上、セアはレトの復活の為に動くしかなくなる。行動しないと、それはそれで裏切りになるから。だろ、セア?」

「…………」



 セアを見ると、大量の脂汗を流した。

 どうやら図星らしい。



「ならセアを監視すれば、レトの封印場所を暴ける。そうすればレトの封印を監視出来るでしょう? もし封印が緩んでも、事前にそれを察知出来る。どうですか?」



 俺の言葉にトワさんは腕を組んで思案する。サリアさんも納得顔だ。

 セアは愕然としている。こんな利用のされ方は考えてなかったのだろう。

 待つこと数分。トワさんが頷き、いつもの優しい笑みに戻った。



「わかりました〜。コハクさんの考えを採用しましょ〜」

「ありがとうございます」

「その代わり、全責任はコハクさん持ちということで〜♪」

「え″っ」



 ぜ、全責任……ですか? 流石にそれは……。



「何を驚いているのですか〜? 確かに私はあなたの上司ですが、あなたは既にミスリルプレートのハンター。こう言った重要案件では、相応の責任が発生しますから〜」

「た、確かにその通りかもしれないですけど……!」

「それじゃ〜後はお願いしますね〜。私また寝るので〜」



 ……行っちまった。マジか。

 助けを求めるようにサリアさんに視線を向けると、サリアさんも逃げるようにして応接室を去っていった。



『行っちゃったわね。コハク、どうする?』

「どうするって……」



 完全に震え上がっているセアを見る。

 ああ言ってしまった以上、俺がやらなきゃいけないわけで……。



「やるしかないよなぁ。おいセア」

「ひゃいっ!?」

「今聞いてたよな。というわけで、これからしばらく、お前は俺らが監視する」

「ひゃぃ……」



 ……こんな泣かれると、俺がいじめてるみたいで気が引けるな。

 でも逃がすなんて選択肢は論外。となると、俺が付きっきりで監視するしかない。



「スフィア、セアの監視を頼む」

『かしこまりました』



 スフィアなら無休で監視出来るし、万が一逃げたとしても捕まえられるだろう。

 はぁ……偶然とはいえ、面倒事に巻き込まれた気がする。

 トワさんなら手伝ってくれると思ったんだが……仕方ないか。

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