末端魔族──③

   ◆



 セアを連れて、俺たちはテイマーギルドへと戻ってきた。

 もう夜中だと言うのに、まだギルド内は人で賑わっている。

 二十四時間、年中無休だけど、スタッフはちゃんと休めているんだろうか。



「サリアさーん、戻りましたー」

「あ、コハクさん。お帰りなさい!」



 いつもは昼勤務のサリアさんだが、今夜俺が新月草の採取に向かったことを知り、今日だけは夜勤務になってくれた。

 そこまでしてくれることはないんだけど……いつも助かってます。



「新月草、採取出来ました?」

「出来ましたよ」

「流石コハクさんです。それでは、早速取りに行きましょう。今、闇魔法専門職を連れてきますね」



 え? ……あ、そうか。新月草は光に弱いから、採取したら光のある場所に持ってこないで、一旦放置して闇魔法専門職に運搬を依頼するんだっけ。忘れてた。



「あ、持ってきたので大丈夫ですよ。ほら」



 スフィアに持たせていたケージを受付に置く。

 クリアガラスの中に並々と満たされた液体。そこに、大量の新月草が浮かんでいた。

 異様な光景に呆然とするサリアさん。

 確かに、なんか変な感じがするもんね、これ。

 サリアさんは机の下を漁ると、植物図鑑のようなものを取り出し、あるページを開いた。

 新月草のイラストが描かれている。色も形もそのままだ。



「こ、これ、は……!?」

「新月草です」

「ですよね!?」



 ギルド内にいる人の視線も気にならないのか、大興奮した様子で目を輝かせている。



「な、なんでっ!? なんで光の下で消滅してないんですか!?」

「なんか、この液体が光の魔力を通さないみたいで。これも仲間の力です」

「こ、こんなの革命的じゃないですか……!?」



 初めてまじまじと見れるのか、サリアさんは鼻息荒く新月草を見る。

 納品は済んだ。後はセアについてだけど……。



「サリアさん、トワさんはいますか?」

「マスターですか? 流石にこの時間はお休み中ですけど……」

「至急報告することがあるんです。申し訳ないですけど、起こせないですか?」

「……コハクさんが至急ということは、相当な緊急事態みたいですね。わかりました、応接室でお待ちください」



 応接室に通され、サリアが足早に立ち去る。

 待つことしばし。扉が開き、眠そうな目を擦ってトワさんが入ってきた。



「んにゅ……ぉはょーごじゃぃましゅ……」

「あ、トワさん。すみません、起こしてしま……で!?」



 ちょっちょちょっ! ちょ、ちょぉ!?

 急いで目を逸らしたからチラリとしか見えてない。が、恐らく、多分、ほぼ間違いなく……!

 色んなところがすっけすけのネグリジェだッ……!!



『なんてハレンチな格好してるのかしら。燃やしましょう』

『まあ、お子様体型が嫉妬していますね』

『はぁん!? だだだだ誰が嫉妬してるですってぇ!』



 こらこら二人ともうるさいよ! あとクレアは動揺しすぎ!

 って、それより!



「ななななんて格好をしてるんですか!」

「ねまき、でしゅが……すゃ」



 寝落ちしそうだし!

 と、後から追いかけてきたサリアさんが、慌ててトワさんの上からガウンを羽織らせる。おかげで肌面積は格段になくなった。よかった……。



「す、すみませんコハクさん。マスター、寝起きだといつもこんな感じで……」

「い、いえ。大丈夫です」



 本当は全然大丈夫じゃないけど。

 ほっと胸を撫で下ろし、とりあえずトワさんを見る。

 まだ眠いのか、眠そうに目を擦って船を漕いでいた。



「えっと……話をしても?」

「あ、大丈夫です。私も聞いていますので、何かあれば私からマスターに言います」

「ありがとうございます、サリアさん」



 サリアさんも聞いててくれるなら、安心かな。

 俺はスフィアに合図すると、フェンリルの背に縛られていたセアを下ろした。

 これだけの人間や幻獣種ファンタズマに囲まれている状況に、言葉すら発せないみたいだ。



「コハクさん、その子は……?」

「魔族です。さっき捕らえました」

「……は?」

「えっ、魔族?」



 流石に聞き逃せなかったのか、トワさんの目が鋭く光る。

 近くを飛んでいたミニクルシュも、覇気を迸らせセアを睨みつけた。



「あばっ、あばばっ、あばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば……!?!?」



 死を覚悟したのか、セアは滝のような汗を流しながら震え上がる。

 鎖で縛られている上に、この圧の中では満足に動けないだろう。

 トワさんはゆらりと立ち上がると、セアへと近づいた。



「待ってください、トワさん」

「待つことなんてありませんよ〜。そこに魔族がいる。殺す理由はそれでいいではありませんかぁ〜」

「ダメです。まずは俺の話を聞いてください」



 俺が明確な拒否をしたことに驚いたのか、トワさんが僅かに目を開ける。

 俺の後ろにいるみんなも戦闘態勢に入り、それを見たクルシュも口へ《ブレス》を集中させた。

 しばしの沈黙。

 トワさんは力を抜くように息を吐くと、ソファーへ座り直した。



「……まあ、コハクさんが言うなら……」

「ありがとうございます。実は──」

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