末端魔族──②

「それでセア。なんで新月草なんて探してるんだ?」

「そ、それは……」



 目がバタ足ばりにびちびち泳いでいる。

 この反応、知られたくない何かを隠してるみたいだ。

 新月草は闇の魔力のもと、生えてくるらしい。だから光を僅かに照らされると、それだけで枯れてしまう。

 そんな特殊植物が必要ということは、間違いなく何かあるな。



「魔族に関わることか?」

「(ビクッ)」

「封印を解く為とか」

「(ビクビクッ)」



 この反応、真っ黒じゃないか。



「となると、獄門のレトに対する忠義ということか」

「ち、違いますっ! ……ぁっ……!」



 ……え、違う?

 セアを見ると、ローブの裾を掴んで俯いていた。

 今、確かに違うと言ったな。俺が忠義という言葉を発したら、食い気味に。



「何が違うんだ?」

「い、言えませんっ」

「文字に書くのは?」

「出来ませんっ」



 封印されていて何も出来ない七魔極をここまで怖がるなんて……なんらかの呪いか、それとも強制力が働いてるのか……。



「スフィア」

『はい、ご主人様』

「え、すふぃあ? なんです?」



 説明すると長くなるから無視。

 スフィアがセアの頭に手をかざす。

 と、スフィアの瞳が七色に光り出した。



「あ、あのっ。何か圧を感じるのですが……!?」

「すぐ終わるから。動いたら頭爆発するぞ」

「ピッ!?」



 嘘だけど。



『ご希望とあらばやりましょうか?』



 やめなさい。

 そのまま待つことしばし。

 スフィアが手を下ろすと、振り返って頷いた。



『確認したところ、まず間違いなく隷属の魔法が掛けられています。裏切りの言動があった場合、自動で体の内側から爆散する魔法が発動するようです』

『七魔極。相変わらず汚い真似をするな』

『コゥ〜、死んだら食べていーい?』



 お腹壊すからダメ。

 しかし、隷属の魔法か……なんだかテイマーみたいなことをするな。

 当然、テイマーとは性質が全く異なる。

 テイマーは、テイマーだけが使えるスキルを用いて、契約テイムという方法で魂同士を結びつける。言わば対等の関係だ。

 だが隷属の魔法は違う。一方的に主従関係を結び、従える。

 今のセアはその状態だ。

 レトに関する裏切りの言動があれば、死ぬ。

 恐らくセア以外の末端魔族も、同じ状態なのだろう。


 だからと言って、セアが魔族であることには変わりない。

 ここでセアを逃せば、獄門のレトを復活させる為にまた奔走するだろう。

 力も弱いし、捕まえて牢獄に繋げておけば……。



「スフィア、連れていこう」

『かしこまりました』



 スフィアが拘束している鎖を引っ張ると、セアはバランスを崩して地面に倒れる。



「ななななっ!? なんですかこれっ!? 魔法っ、魔法ですか!?」

「魔法じゃないけど、説明はしない。長くなるし。それに君は魔族だからね。牢獄に捕らえさせてもらうよ」

「しょんなっ……!? わわわわ私なんて捕まえてもなんの意味もないですよ! 何かあったら直ぐ切り捨てられるだけの木っ端な存在なので!」

「セアが今後、人間を襲わないとは限らないからな。念の為だ」

「う、うぅ……確かに未来は否定しきれません」



 ……なんか、ヤケに聞き分けがいいな。

 魔族っていうのはもっと独りよがりで傲慢だと思ったんだけど……様子がおかしいような?

 クレアもおかしいと思ったのか、じどーっとした目でセアを睨めつける。



『ねえコハク。この魔族、おかしくないかしら? なんか優しすぎるような気がするけど』



 クレアの言う通りだ。

 魔族は狡猾な種族だと聞いていたけど、セアはそんな感じもしない。



「セア、聞いてもいい? 俺は今まで二体の野良魔族と、七魔極・創造のグラドと戦ってきた」

「ぇ……ぐぐぐ、グラド様と戦ったんですか!? え、でもあなたは生きて……!?」

「ああ、殺したからな」

「ころっ……!?」



 人間の俺が七魔極を倒したのが信じられないのか、セアの目が見開かれる。

 まあ、正確には俺一人の力じゃなくて、幻獣種ファンタズマのみんなやギルドのみんなが助けてくれたから出来たことだけど。



「それで、その三体の魔族と会ってきたからわかるけど……セアの言動は、明らかに他の魔族とは違う気がする。俺を騙してるようにも見えないし」



 それに何か違和感があれば、スフィアが絶対に教えてくれる。

 つまり今のセアの言動は、素の姿ということだ。

 セアは唇を結び、顔を合わせないようにして俯いた。



「……さっき、私が言った通りです。私は末端魔族。その中でも更に、弱くてのろまで雑魚で……魔族としては欠陥品なんです」

「欠陥品?」

「魔族というのは、強い生命体です。頭の回転も早く、狡猾で、何より強い。……でも私、変なんです。人間さんを攻撃しようとしても手が震えちゃうし、殺すなんて以ての外。こうして生きて来れたのも、レト様が拾ってくれたからでして……」



 なるほど、だから欠陥品と言っているのか。

 確かに魔族の常識や個体の強さを基準にしたら、欠陥品も言われても仕方ない弱さだ。

 みんなの反応を見るに、セアが嘘をついているようにも見えない。

 うーん……こういう魔族がいるなんて予想外だ。

 扱いに困るな、本当に……。

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