末端魔族──①
「え、ええと……?」
ほ、本当に魔族、か?
え、なんでこんな場所に魔族が?
魔族(仮)の女の子はぶんぶんと手を振り、少しでも光を遮ろうと必死になっている。
「た、旅人さんかもしれないですけど、ここは今日新月草が生える場所なんです! 知ってますよねっ、新月草! はははっ、早く消してくださいですー!」
わたわた、わたわた。
まるで慌てている子供みたいだ。魔族だけど。
そんなことをしていると、手がフードにぶつかりずり落ちた。
目と同じ真紅の小さな角が二つ、頭から生えている。もう間違いない。魔族だ。
『コハク。殺しましょう』
『それがよいかと』
『私が斬り伏せましょう。何、魔族の中でも雑魚です』
『ボク、お腹空いたなぁ』
みんなが殺気を迸らせて魔族の女の子を睨み付ける。
その気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着こうよ。なんか今までの魔族と違うっぽいし。
「まあ待て。殺すのも食べるのも後だ」
「殺!? 食べ!? わわわ、私なんて美味しくないですよっ! 瘦せっぽちですし、がりがりですし、骨ですし、弱くてのろまで雑魚でぱしりで芋でぐずで馬鹿でアホで弱虫で泣き虫でぶつぶつぶつ」
マシンガントークならぬ、マシンガン卑下。何したいのこいつ。
「えっと……何なの、君? 魔族、でいいんだよね?」
「ぶつぶつぶつ……ふぇ? あっ。ははははい! ま、末端魔族のセアです!」
「そうか、セアか。……セア?」
え、名前? 魔族に名前?
振り返り、スフィアを見る。スフィアも目を見開いてセアを見ていた。
『基本、魔族は名前がありません。魔族は力至上主義の縦社会。ですが、名前を持つ魔族は一定数います。それが魔王。そして、七魔極とその配下です』
し、七魔極の配下だって?
改めてセアを見る。
背筋をピンと伸ばし、口をあわあわさせている。目には涙が溜まり、今にも気絶しちゃいそうだ。
こんな奴が、七魔極の配下……? 何かの間違いだろ、絶対。
「えーっと……セア。一つ聞いていいか?」
「は、はいぃ! 趣味はお菓子作り! 処女であります!」
「聞いてない。それで、お前は七魔極の誰の配下だ?」
「れれれ、レト様ですっ! 獄門のレト様です、はい!」
獄門のレト。知らない七魔極だ。
封印が解かれたらすぐにみんなが反応する。つまり、多分まだ封印されているんだろう。
とりあえずフラガラッハを抜き、セアに向ける。
みんなもセアを逃がさないように四方を囲み、スフィアがスカートの中から鎖を出してセアをがんじがらめにした。
「ちょー!? う、動けないんですけど!? 動けないんですけどー!?」
「ちょっと黙ってくれ。そして、俺の質問に答えろ」
「ひぅっ……あぃ……」
◆
セアを座らせ、俺もその前に座り込む。
セアの背後にはフェンリルが逃がさないように座り込み、スフィアはセアの横で、鎖を手に持っている。
他のみんなは俺の後ろに待機し、セアが何かしたらいつでも動けるようになっている。
「な、なんでしょうっ。人間さんしかいないのに、周りから圧がすごいんですけど……!?」
「それは今関係ない。俺に聞かれたことだけを答えれば、それだけでいい」
「は、はいです……!」
そうだな、まずは……。
「セア。お前はいつ封印が解かれた? そんな気配は微塵も感じられなかったけど」
「グラド様の封印が解かれた時に、その余波で……」
「グラドの封印って……まさか、お前以外にも復活した魔族が!?」
「は、はい。いるはずです」
なんてこった!?
い、今すぐトワさんとレオンさんに報告しないと!
「ででで、でもみんな、私と同じで気弱でひ弱な魔族でして……人間さんを殺したことも、食べたこともないんです」
「……そうなの?」
「はい……私たち末端魔族は、そういった雑魚魔族か、力が弱い魔族が採用されるんです」
採用って、なんか企業組織みたいだな。
「その末端魔族って何?」
「七魔極の配下のことです。主に、七魔極のお世話をするのがお仕事です。雑魚魔族しか採用されないのは、力のある魔族が配下になると、寝首を搔かれかねませんから」
「お前以外の末端魔族も、余波で復活したのか?」
「多分……私以外の末端魔族は、まだ見てませんが」
なるほど。それならまだ一安心、か?
いや安心なのか? 末端魔族は復活している。なら、それに対応する作戦を考えないと……あーくそ。どうしてこうなる。
「……ん? 待てよ……配下がいるなら、配下以外の魔族もいるってことか?」
「はい。私たちは野良魔族と呼んでいます。どこにも属していない方々で、力も強いです」
ということは、俺らが今まで相手をして来た魔族は野良魔族ってことか。
段々と、魔族全体のパワーバランスが見えてきたぞ。
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