セアという魔族──①

【作者より】

7/15 書籍版第3巻発売

7/20 コミック第1巻発売


よろしくお願いします!

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 ギルドを出ると、とりあえずセアを宿に連れてきた。

 フェンリルの背中に乗せれば姿は隠せるし、大した労力でもなかった。


 今部屋には、俺とみんな、それにセアがいる。

 スフィアの鎖で繋がれながら、落ち着かない様子で部屋を見渡していた。



「すごい……人間さんは、こんな場所に住んでるんですね」

「住んでるというより、借りてる状態なんだけどね」



 スフィアが、フレデリカちゃんに注文しておいた料理をテーブルに広げる。

 フェンリルとクレア、ライガの分もあるから、相変わらずものすごい量だ。

 次々に並べられる料理の数々に、セアも唖然としている。



「こ、これ、人間さん1人で食べるんですか……?」

「いや、俺は幻獣種ファンタズマテイマーだから、みんなと一緒にね。セアも食べていいよ」

「いいんですか!?」



 え、なんでそんなに驚いてるんだろ。

 特に大したこと言ってないような。



「あ……もしかして、人間の作った料理は食べられないとか、そういうのだったりする?」

「そそそそそういうわけでは……! ただ、その……私は捕まってる身なので、ご飯は食べられないと思ってました……」

「さすがにそんなわけないよ」



 思わず苦笑いを浮かべた。

 そんなことして、いざって時に動けなくなる方が問題だ。

 獄門のレトの場所を割り出すためには、セアには元気でいてもらわなきゃ困る。


 セアは余程お腹が空いているのか、生唾を飲み込んで料理を見つめる。



『ねえコハクっ、もうお腹空いたわ!』

『がまんむり! 食べたい!』

『こら、意地汚いぞ』



 はは、クレアとフェンリルも、もう我慢できないみたいだ。



「それじゃあ食べよう。いただきます」



 俺が手を合わせると、クレアたちも料理にがっついた。

 瞬く間になくなる料理を前に、セアは唖然としている。



「ほらセア。君も食べていいよ」

「……あ、はいっ……!」



 肉を鷲掴みにし、ギザギザの歯で噛み付く。

 結構な肉の塊を一瞬で噛みちぎると、目を見開いた。



「んぉぉ……ぉいひぃ……!」

「気に入った?」

「はぃっ。人間さんは、こんなに美味しいものを食べているんですね……!」



 確かに、親父さんの作る料理はどれもピカイチだ。

 けどそこまで喜ぶなんて、魔族って普段何を食べてるんだ?



「あ、そうだ。セアはいつ復活したんだ? グラドが復活して直ぐか?」

「はい。余波で封印が解けたので」

「……今まで何を食べて生きてきたの?」

「う……えっと、生きた虫とか、捕まえやすい小魚とか……魔物は強すぎて倒せないので」



 サバイバルの日々を思い出しているのか、遠い目をしている。

 同情はしないけど、生きた虫をそのまま食べるのは……なんとなく、魔族っぽいとは思った。

 毒の魔族も、毒性魔物を丸かじりしてたし。



「それに、こんなに美味しいお肉を食べたのは初めてです」

「大袈裟だな」

「大袈裟じゃないです。お肉なんて、レト様からいただいた小さいお肉か、山で死に絶えた魔物の死肉しか食べたことないので」



 悲しくなってきた。

 末端魔族っていうのは、自分でご飯を取ることも難しいのか。

 鍛えていない人間ならわかるけど、魔族でそれは死活問題だろう。



「あむあむ。おいひぃ、おいしぃれふ……もぐもぐ」



 涙を流して肉や魚を食べるセア。もちろん、全部鷲掴みで。

 魔族には食器を使うって文化はないみたいだ。

 セアを通して、少しだけ魔族の生態がわかってきたような気がする。



『ご主人様、ご用心ください』

「ぇ……?」



 傍に立っているスフィアが、鋭い目でセアを睨みつける。



『魔族は狡猾です。これも演技やもしれません』

「でもスフィア。セアに隷属の魔法が掛けられてるのを調べたとき、裏がないことは確認してるんだよね?」

『そ、それはそうですが……』



 スフィアのことだ。もし裏があったり、何か企んでいたら、絶対見抜くだろう。

 それがないということは、セアが話していることは本心で、裏なんてないってことだ。……と思う。


 なんにせよ、これからセアとは行動を共にするんだ。

 もし何かあったらスフィアが見逃さないだろうし、大丈夫だろう。……多分。

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