呪い──①

 サーシャさんとの特訓を終え、俺はクレアと共に宿フルールへと戻ってきた。


 因みにサーシャさんからは、これからも定期的に特訓することを約束させられた。


 まあ、俺は別にいいんだけどさ。今日見た感じ、まだ女の子扱いに慣れてないっぽいし。



「ただいまー」

『戻ったわよー』



 いつもの部屋に入ると、真っ先にフェンリルが駆け寄って来た。



『コゥ、おかえり! おかえり!』

「おー、よしよし。寂しくなかったか?」

『ちょっとだけ!』



 寂しかったんじゃないか。

 よしよし、いっぱいもふもふしてやろう。


 フェンリルに抱きついてもふもふ、もふもふ。

 フェンリルも嬉しそうにじたばたする。ちょ、待って家具が壊れる!



『コハク様、お疲れ様です』

『お帰りなさいませ、ご主人様』

「あ、ただいま。ライガ、スフィア」



 ……? おかしい。2人の顔が若干渋い。どうしたんだろうか?



「どうしたの、2人とも? 何かあった?」

『いえ、何かあったという程ではないのですが……』

『然り。今まで感じていた呪いの気配が、ぱたりと消えたのです』



 ……なんだって?



「消えた? 浄化されたってこと?」

『浄化されたのではありません。消えたのです』



 ???? いまいちライガの言ってることがわからない。

 浄化されたんじゃなくて、消えた? どういう事だろう。



『ご主人様。前提として、呪いが独りでに消えるなんてことはありません。呪いというものは、浄化されるか封印されるまでずっとそこにあり続けるのです』

「ふむふむ?」

『そして浄化または封印された場合、呪いは独特の魔力を発します。しかし……』

「今回はそれが全くなかった、と?」

『その通りです』



 ふむ…確かにそれはおかしい。

 スフィアとライガが魔力の気配を逃すなんて考えづらい……ということは、本当に消えたんだろう。


 突然消えた呪い……妙だな。



「……行ってみるか。スフィア、呪いが消えた場所ってわかる?」

『正確な場所までは……ですが、フェンリルなら匂いで追えるかと』

『できる! 呪い、くさい!』



 呪いにも匂いってあるのか。

 まあ、いい匂いではないよな、イメージ的に。臭そう。



「それじゃ、今から行ってみるか」



 みんなと外に出て、誰もいない裏路地でフェンリルに跨る。

 大雑把な位置はスフィアに任せ、後はフェンリルの鼻を頼りに進むことに。


 アレクスの街を出て真南に進む。

 渓谷と岩場が広がり、上から見てもかなりでこぼこしているのがわかる。


 スフィアの案内だと、この辺らしいけど……。



「この辺?」

『はい。フェンリル、頼みますよ』

『頼まれたー!』



 フェンリルがしきりに鼻を動かす。

 あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。

 それにしても、こんな場所になんで呪いが……?

 呪いは人がいる場所を好むらしいけど、どう考えてもこんな場所に来る意味がわからない。



「どう、フェン? 見つけられそう?」

『ぐむむ。匂いが散っててわかりづらい……』



 それもそうか。ただでさえ時間は経ってるから、匂いも薄まってるだろうし。



「フェン、もう少し高度を下げよう」

『うん!』



 少しずつ岩場が近付いてくる。

 こうして見ると、至る所に洞窟がある。

 何かが隠れるにはうってつけだけど、まさかな……。



『! 見つけた!』

「うおっ……!」



 急に旋回したフェンリルにしがみつく。


 フェンリルが匂いを辿って駆けていくと……なんだ? 変な気配がするけど……。



『この気配の感覚……魔族かしら?』

「え? でもなんか違くない?」

『うむ。魔族とは違う気もする。不穏な気配だ』



 ライガの言う通りだ。なんだろう、これは?


 無数にある洞窟の中で、フェンリルが1つの洞窟の手前に降り立った。

 確かにここからの気配が強い。

 でも気配の残滓といった感じで、明確な気配は伝わってこなかった。



「ここ?」

『ここ! くさ! くさくさのくさっ!』



 くさくさ言い過ぎ。どんだけ臭いんだ。


 スフィアに防臭フィールドと防御フィールドを張ってもらい、フラガラッハを抜く。



「……行こう」



 俺を中心に前をスフィアとクレア。後ろをライガとフェンリルが歩き、洞窟の中へと入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る