特訓──⑦

「いらっしゃいませ」



 店の中には店員が1人。

 あとはアンティークのオモチャや道具が並んでいて、店内全体がちょっとした芸術品のようだった。



「あの、いいですか?」

「はい、なんでしょう」

「あの店頭に並んでる人形なんですが」

「人形? ……ああ、あれですか」



 店員さんが困った顔で人形を手に取った。



「これなんですが、お客様が買われてもしばらくすると戻ってきてしまうのです。捨ててもダメ。魔法で廃棄してもダメ。気が付くといつの間にかあの場所にいて……私もどうすればいいか困っているんです」



 なるほど。人を呪い殺すだけでなく、この店に戻ってくる……間違いなく、呪われてるな。



「それじゃあ、それをください」

「え? でも……」

「ご安心を。これでも俺、テイマーギルドのプラチナプレートなので」



 念の為にポケットに入れていたプレートを見せる。

 と、店員さんも驚いた表情で俺を見てきた。



「ぷ、プラチナプレートのハンター様でしたか。……それなら安心ですね。どうぞ、持っていってください」

「あ、お代は……」

「結構です。こちらを処分してくださればそれで」

「……ありがとうございます」



 人形を受け取り、改めて見る。

 ……僅かに怒気のようなものを感じる。あと憎悪。

 これから浄化されると察して、威嚇しているみたいだ。



『あん? コラ、私のコハクに何ガン垂れてんのよ。今すぐ燃やすわよ』

『ピッ──!?』



 あ、怒気が収まった。

 変わりにめちゃめちゃ怯えてるわ。


 何にせよ、これで次の犠牲者は出ずに済むか。



「サーシャさん、行きましょう。……サーシャさん?」



 店の中のある場所で固まってるサーシャさん。

 肩口から見ると、美しい髪飾りを見つめていた。


 青いクリスタルが花を形作り、光を反射して煌びやかに輝いていた。



「へぇ、綺麗ですね」

「うん……」

「サーシャさん?」

「うん……」

「……ぺったんこ(ぼそっ)」

「あ?」

「聞こえてるじゃないですか」



 だからその殺気を収めてください。



「欲しいんですか、それ?」

「そ、そんなわけないじゃんっ。こんな可愛いの、ウチには似合わないって」

「サーシャさんは可愛いですよ」

「んがっ」



 え、何今の声。



「も、もうっ、からかうの禁止! 人形は手に入れたんでしょ。ウチ、外で待ってるから!」



 行っちゃった。

 そんなに照れることじゃないと思うけどなぁ。



「あ、すみません。この髪飾りください」

「はい、ありがとうございます。ふふ、可愛らしい彼女さんですね」

「はは、どうも」



 彼女ではないけど、わざわざ否定するのも面倒だから、もうそれでいいや。

 店員さんに髪飾りを包んで貰うと、肩に座っているクレアがむすーっとした。



『むぅ! むぅむぅ!』

「どうした?」

『私もプレゼント欲しいんですけど! 私も欲しいんですけどー!』



 耳元で叫ぶのやめて。

 欲しいっていわれても、クレアの体に見合う大きさのものなんてなさそうだけど……。



「あの、すみません。小さい人形用の髪飾りとかありますか?」

「え? ……まさか、この人形に?」

「い、いえ。知り合いの娘さんが人形が好きでして。プレゼント用です」

「そうですか……それでしたら、こちらです」



 うん、ガッツリ怪しまれてたね。

 でもしょうがないでしょ。プレゼントしないと、クレアがずっとうるさそうだし。



   ◆



『むふふ……えへへっ』



 金色の髪飾りをつけ、ご満悦なクレア。

 これくらいで喜んで貰えるなら、他のみんなにもプレゼントした方がいいかな。


 外に出ると、サーシャさんが壁を背に待っていた。



「遅かったじゃないか。どうかした?」

「い、いえ、大丈夫です。それと……はい、これ」

「え、これ……?」



 青いクリスタルの髪飾りを渡す。

 驚いたのか、目を丸くして俺と髪飾りを交互に見た。



「欲しそうだったので。どうぞ」

「だ、誰も欲しいなんて……!」

「なら、俺からプレゼントさせてください。言ったでしょ? 全力で女の子扱いするって」



 髪飾りをそっと握らせる。

 サーシャさんは嬉しそうに目を輝かせ、いそいそと髪を留めた。



「ど、どうだい? 似合うかい?」

『へぇ、中々いいじゃない』

「はい。とてもお似合いです」

「そ、そうかっ。似合うか……ふ、ふんっ。そこまど言うなら、貰ってあげるよ。感謝してよねっ」



 とか言いつつめっちゃニコニコじゃないですか。


 ふーむ。女の子扱いってよくわからなかったけど、これでいい……のかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る