訓練──⑥

 噴水広場の屋台エリア回り終え、今度は大道芸エリアへとやって来た。

 ある程度腹もいっぱいになったし、ここからは腹ごなしの散歩だ。



「おおっ。ここもいい感じに賑わってるねぃ」

「こっちには当然?」

「来たことない!」

「知ってます」

「む。じゃあ聞くなよぅ」



 いじいじ。いじけちゃうサーシャさんも可愛い。

 けど、そんなサーシャさんも大道芸を見ると満面の笑みになった。


 直立の梯子に登り、数メートルも高い場所で曲芸を行う。いわゆる梯子乗りだ。



「うわ、梯子の上で回ってる……!」

「魔力の気配を感じない……本当に身体能力だけで乗ってるんだ」

『人間も中々やるわねぇ〜』



 サーシャさんもクレアも、感心したように呟く。


 次々繰り出される技に、お客さんも熱狂していた。

 体一つでお客さんを喜ばせる……大道芸、凄いな。


 気が付けば、俺達も歓声と拍手を送っていた。

 もちろん梯子乗りだけでなく、ナイフを使ったジャグリング。テイマーなのか、魔物を使った曲芸。他に魔力を一切感じられないマジックなど、お客さんをとことん喜ばせる大道芸人ばかりだった。


 一通りの大道芸を見終えた後でも、サーシャさんは興奮した様子で俺の服を掴んでブンブン振っている。



「すごいすごい! コハクくん、みんなすごいよ!」

「ええ。俺も驚きました」



 宿フルールの娘さん、フレデリカちゃんに聞いてはいたけど、まさかこんなに盛り上がるものだとは思わなかったな。


 後でお礼しないと。


 噴水広場を後にし、俺らは大通りを歩いていた。



「コハクくん、次はどこに行くんだい?」

「目的はありません。ウィンドショッピングです」

「うぃんどしょっぴんぐ?」

「何も買わずにブラブラ回って、好きなものがあったら買うって感じですね」

「へぇ……」



 どうやらピンと来ていないみたい。

 サーシャさんのことだからしたことないと思ったけど、ドンピシャだったらしい。



『いや、アンタもウィンドショッピングなんてしたことないじゃない』



 そこ、揚げ足取らないの。



「まあ、色々見て回りましょう」

「んー。どうやって楽しむのかよくわからないけど、コハクくんが言うなら……」



 大丈夫です。俺もわかりません。


 サーシャさんと手を繋ぎ、大通りを歩く。

 こうやってゆっくり大通りを歩くのも久々な気がするな。

 色々な店が並んでいて、活気がある。

 こういう時間もたまにはいいものだ。



「サーシャさん、どうです? 何かいいものは……あれ?」



 ……えっ、いない!?

 馬鹿なっ、今までずっと手を繋いでたんだぞ!?



『あ、コハク。あれ』

「え?」



 あ、いた。

 サーシャさんはガラスに張り付き、何かを必死に見つめている。



「サーシャさん、いきなりいなくならないでくださいよ」

「あ、コハクくん。ごめんごめん。ちょっと良さげなものを見つけて」

「良さげなもの?」

「うん、これ」



 ……人形?

 ちょっと古いけど、小さな女の子がよく持っていそうな人形だ。

 目がギョロっとしていてちょっと怖いけど。


 なんだ、サーシャさんもこういうの好きなんだな。ちょっと意外だけど。



「これ、呪われてる」

「そうですか。呪われ……は?」

「正しくは、昔呪詛に使われた人形だね。所持しているだけで人を呪い殺す人形。まあオモチャだよ」



 こっっっっわ!?!? そんなもんがなんで店頭に!?



「こ、これどうしたら……?」

「このままじゃ誰かを呪い殺しちゃいそうだからねぃ。どうしよっか」



 なんてこった。楽しいウィンドショッピングのはずが、まさか呪いの人形を見つけてしまうとは。



『全く、しょうがないわね。コハク、これ買いなさい。私の聖炎で浄化してあげるわよ』

「そ、そう。ならクレア、お願いできる?」

『まっかせなさいっ』



 ふぅ。幻獣種ファンタズマのクレアの炎なら安心だ。

 やれやれ、困ったもんだ。



「コハクくん、どうするの?」

「ああ。これを買って、俺の使い魔に聖炎で燃やしてもらいます」

「……それがいいかもね。じゃ、入ろっか」



 サーシャさんは鼻歌を口ずさみつつ、中に入る。

 俺とクレアも、その後を追ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る