特訓──③

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 サーシャさんが寝落ちした2時間後。

 ようやく起きたサーシャさんは、にゃはーっと笑った。



「いやー、ごめんごめん。ついぐっすり寝ちゃったよ」

「いえ、よく眠れたのならよかったです」



 まあそのせいで脚は痺れてるんですが。

 スフィアも撫でられて満足したのか、どことなくツヤツヤしてるし。



「それで、女の子扱いはこんな感じでいいんですか?」

「ん? え、えっと……い、いや、もっとやろう!」

「マジですか」

「こ、コハク君もわかってると思うけど、何かを身に付けるには努力を怠っちゃダメなんだっ。ウチはまだ女扱いに慣れてないし、時間を掛けてやらなきゃいけない! だからそのっ……も、もう少し……」



 恥ずかしそうに俺をチラチラ見るサーシャさん。

 確かにサーシャさんの言うこともわかる。

 俺が剣術を身に付けた時も、えぐいほどの訓練を通じてようやく手に入れることができた。


 ギルドマスターになるほど、己を鍛えたサーシャさんのことだ。その努力は想像に難くない。

 サーシャさんにとって、これはそれ程重要なことというわけだ。


 そんなサーシャさんが恥を忍んで頼んでいる。

 ここで俺が拒否するなんて、どうしてできようか。



『ご主人様。この小娘、絶対下心があります。断るべきです』



 こらこら。サーシャさんも覚悟を決めてるんだから、そんなこと言っちゃダメだよ。



「わかりました。その特訓、いくらでも付き合いますよ」

「ほ、本当かい!? えへへっ、やった♪」



 そんなに自分の弱点を克服するのが嬉しいのか。

 すごくストイックな人だな、サーシャさん……俺も見習わないと。



   ◆



『断るべきです』

「まだ言ってるの?」



 俺とスフィアは連れ添って大通りを歩いていた。

 今日の訓練はあれで終わりということで、明日から別メニューを行うとのこと。


 でもスフィアはそれが不服のようで、顔には出てないが雰囲気が不満げだった。



『あの嬉しそうな顔。絶対裏があるに決まってます』

「どんな?」

『私の口からは言えません。サーシャ様のプライバシーに関わることですから』



 んー……? 何が言いたいんだろう。

 まあスフィアの言いたいことはわかる。

 サーシャさんはアサシンだし、もしかしたら本当の気持ちを隠してるのかもしれない。


 でも、女扱いに慣れるという言動に隠された本当の意味……ダメだ、わからない。


 スフィアはわかってるみたいだけど、話してくれないし……。



「とにかく、一度受けた頼みごとだ。後になって『やっぱなしで』は俺の信条に反する」



 強くあれ、雄々しくあれ。正しくあれ、誠実であれ。


 約束を保護にするのは、正しくない。

 そもそもできない約束をするのは、誠実でない。

 今回のことは俺にできることだし、わざわざ断る理由もないだろう。



『……全く。ご主人様は優しすぎます』

「そうかな?」

『ええ。そんな貴方様を、私はお慕いしております。私だけではなく他の幻獣種ファンタズマも』

「はは、ありがとう」



 みんなにこんなに慕ってもらえるなんて、嬉しい限りだよ。



「そんな優しい俺の顔に免じて、今回は見逃してほしいかな。サーシャさんも頑張るって言ってるし、俺も手助けしたいんだ」

『……承知しました。我儘なことを言ってしまい、申し訳ありません』

「気にしないで。さ、みんなの所に帰ろう」

『はい』



 でも……スフィアが何を怪しんでいるのか、気にならないと言えば嘘になる。

 俺はスフィアのデータや考えを信用してるし、スフィアが俺に嘘をつくことがないのも知っている。

 明日、少しサーシャさんに探りを入れてみるか。


 本当に女の子扱いに慣れるためだけなのか。

 それとも何か裏があるのか。


 ま、とにかく明日だね。

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