煉獄──⑩
【作者より】
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「おいおい、嘘だろ……さすがに怠いって……」
ザニアさんも呆然としている。
そりゃあ、こんな巨大すぎる生物が現れたら、そんな反応になる。
あの煉獄の住人でも手を焼いてるのに、それ以上の巨躯って……。
『ご主人様、あれを』
「あれ? ……ん?」
あの煉獄の住人の腕から、何か飛び降りてきて……?
「あっ、おーーーい! コハクくーーーーん!!」
「え……サーシャさん!?」
ちょ、どうしてそこからあなたが落ちてくるんですか!?
俺に向かって落ちてくるサーシャさんを、出来る限り優しく抱き留める。
スフィアと魔人化してなかったら、落ちてきた瞬間に俺もぺちゃんこっすよ、これ。
俺に抱き着いたサーシャさんは、満足そうな顔で「むふー」と息を吐いた。
「ふふ。今ウチは、そこはかとなく幸せを実感しているよ」
「は、はあ、そうっすか」
『ちょ、この雌ガキッ。何ご主人様の温もりを堪能してやがるんですか! このまま圧死させますよ!?』
それは止めてあげて。
サーシャさんは何に満足したのか、俺から離れて背後のアレを見上げた。
「死ぬかと思った」
「死ぬかと思ったって……何してたんですか?」
「んー? ちょっと煉獄に行って来た」
「煉獄に……煉獄に行って来た!?」
な、何無茶なことしてんだこの人!?
さすがのスフィアも、俺の中で唖然としている。
『は、え。煉獄に行って、生きて帰って来た……? そんなこと、人間に可能なのですか……?』
『信じ難いが……これがギルドの長とやらの力なのだろう』
「それで、なんで煉獄に?」
「ああ。アレを連れてきたんだ」
「何余計なことを!?」
さっきまで攻撃してたあの1体ですら手こずってたのに、それよりはるかに巨大な奴とか洒落になりませんってっ!
「サーシャ、さすがにこれは言い訳できませんよ~……?」
「やはりこいつに頼んだのが間違いだったか……」
「2人とも酷いなぁ。ウチだって考えもなくこんなことしないよ。ほら」
サーシャさんの指さした先を見る。
と、手の平に目玉のついている煉獄の住人は、俺らではなく捕らわれたグラドを見ていた。
「ちょっと煉獄で悪さをして来たんだけど、その時ウチの姿をあの魔族に見えるように細工をしたんだ」
「あ~、アサシンの幻覚スキルですか~」
「イエス、その通り」
……つまり煉獄の住人は、こっちのサーシャさんじゃなくてグラドの方を敵視してるってこと?
なんて無茶なことしてんだ、この人……。
煉獄の住人は、ゆっくりとグラドに手を伸ばした。
『ちょ、コハク! これどうすんの!? どうすんのこれ!?』
『ガルルルルルルッ!』
「あー……取り合えず戻ってきていいよ」
グラドを放置して2人をこっちに呼び寄せる。
煉獄の住人はこっちには目もくれず、グラドを掴んだ。
「ガァッ!? な、なんだっ! なんだお前ェ!」
グラドが創造魔法を使って煉獄の住人を攻撃するが、どれも全く効いていない。
ゆっくりと引きずり込まれていくグラド。
小さい方の煉獄の住人も、それを見て煉獄の門へと引き換えしていった。
「離せ! 離せ! 離せえええええええええ!!」
グラドが咆哮を上げる。
が、それも虚しくグラドは門の向こう側へと連れていかれ、小さい煉獄の住人によって門が閉じられていった。
「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!??!!!?!」
断末魔に似た絶叫を最後に門は完全に閉じ、次の瞬間、門は崩れ落ちるようにして消えていった。
多分、グラドが煉獄の中で命を食われて、死んだんだろう。
だから門は消えた……ということは。
「お、終わった……? 助かった……?」
『はい、ご主人様。サーシャ様の機転により、七魔極の1体を倒すことができました』
「……は、はは……ぁ」
ダメだ。安心したら、一気に力が抜けて……。
魔人化が解け、地上に向かって落下していく感覚と共に、意識が飛んだ。
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