煉獄──⑨

 あっちはいいとして、問題は煉獄の住人だ。

 スフィアとライガのお陰で煉獄の住人へダメージは与えられたけど、まだ帰る気配はない。

 やっぱ押し返さなきゃ無理かな。


 未だ跪いてうずくまって動かない煉獄の住人。

 とにかく攻撃を続けるしかない。



「よっしゃあ! コハクに負けてらんねーぜェ!!」



 ロウンさんが構え、煉獄の住人の胴体を駆け上がり。



「こんな感じか? ──俺版、コスミック・ブロー!!」



 顎目掛けてアッパーカットを放った。


 ゴッッッッ──!!!!


 体は浮かび上がらなかったが、顎への攻撃により僅かに体が仰け反った。



「チッ! さすがにコハクのようには行かねーか……!」



 そりゃ俺は幻獣種ファンタズマのスフィアと魔人化してるから、あそこまでのパワーを出せるけど……生身で煉獄の住人を仰け反らせるって、どんだけバケモンなんだよ……。


 が、その攻撃が気付けになったのか、煉獄の住人は怒りの形相を見せた。



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッ──!!!!」



 うっ!? ものすごい咆哮……しかも暴れだした!?


 まるで駄々をこねるかのように、両腕を無造作に動かす。

 そのせいで大地は吹き飛び、地割れが起こり、暴風が吹き荒れた。


 まるで大災害。こいつが暴れるだけで地形が変わる……!



「うお!?」

「ロウン!」



 1番近くにいたロウンさんを、間一髪の所でアシュアさんが助けた。

 あんな攻撃まともに食らったら、ひとたまりもないぞっ。


 奴から距離を取る。

 すると、トワさんとレオンさんがこっちへやって来た。



「コハクさん、どうしますか〜?」

「あれだけ暴れられたら、こっちも下手に近付けないぞ」



 レオンさんの言うことは最もだ。

 あんなに巨大で、しかも無造作に暴れる敵を制するのは並大抵のことじゃない。


 再度煉獄の住人を見る。

 子供の駄々のように暴れ回り、雄叫びを上げている。

 よく見るとなんとなく泣いてるような気もする。

 ダメージを受けて泣いて暴れ回るって、なんなんだコイツ。


 今はコルさんとコロネさんが、魔法を使って攻撃を仕掛けている。

 それでもダメージは微々たるもので、むしろ駄々を加速させた。



「クソッ。こんなのどうしろと言うのだ!」

「コロネさん、今は遠距離でやるしかありません。魔法を使えるのは僕とあなたなのですから、口より手を動かしましょう」

「わかっている!」



 暴れる煉獄の住人に向けて、絶え間なく魔法を撃ち続ける。

 ロウンさんを救助したアシュアさんも、飛ぶ斬撃を放って追撃していた。



「私たちも遠距離で攻撃しましょうか〜」

「それしかないが、距離が遠すぎて威力が下がるな」

「おや〜? ビビっちゃいました〜?」

「言ってろ。トワこそ、魔人化していなければ遠距離攻撃すらできないだろ」

「あ?」

「おん?」

「あーもうっ、2人とも喧嘩してる場合じゃないですって!」



 目を離すとすーぐ喧嘩するんだからっ。



「とにかく行きますよっ!」

「「…………」」

「……ん? どうしました?」



 トワさんとレオンさん、煉獄の住人を見上げてぽかーんとしてる。

 周りを見ると、他のみんなも唖然としていた。


 なんだ? 何が……?



『ご主人様、あれを』

「あれ? ………………………………は?」



 え、と……あれ、は……。


 煉獄の住人は、煉獄の門の周囲で暴れている。

 けど、煉獄の門の更に奥に、暴れている奴とは別の影が蠢いているのが見えた。


 そいつが、ゆっくりと門から出てきた。

 暴れている煉獄の住人より遥かに巨大。

 グラドの創り出した門からは、デカすぎて腕しか出てこれていない。


 巨大な煉獄の住人より遥かに巨大。


 巨大すぎる煉獄の住人の手がゆっくり開くと、手の平の目玉がギョロりと俺らを睨み付けた。

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