煉獄──⑧

「アシュアさんっ」

「やあ、コハク君。……あっちは無事捕まえられたみたいだね」

「はい。仲間の幻獣種ファンタズマに見張らせてます」



 あれだけ厳重に捕縛魔法を掛けて、クレアとフェンリルが見張ってるんだ。

 変なことでも起きない限り、グラドは動くこともできないだろう。



「なら、こっちを手伝ってくれると助かる。あれ、デカすぎて押し返すまでいかないんだ」

「わかりました」



 改めて煉獄の住人を見上げる。

 皆さんが攻撃してなんとか足止めしているけど、確かに押し返すことはできていない。


 これだけ巨大な敵は初めてだけど……いけるか?

 ……いや、いけるいけないの話じゃない。

 やる。それしか選択肢はない。


 再度、グラドに目をやる。

 何かを叫びなんとか逃げ出そうとしているが、その度にフェンリルにビンタされていた。


 あっちは大丈夫そうだな。



「スフィア」

『かしこまりました』



 パワードスーツが組み変わり、右腕だけが巨大化した。

 メカメカしいが、どこか禍々しい。

 駆動音が聞こえ、エメラルドグリーンの光が節々から漏れ出た。



「とりあえず、1発ぶちかまします」

「頼んだ」



 アシュアさんが俺から離れる。

 漆黒の翼を大きく広げ、ブースターを起動。

 1枚に2つ。合計12個のブースターにより、初動から一気にトップスピードまで加速する。



「お、おいコハク! こいつに拳じゃ……!」



 すれ違いざま、ロウンさんが警告する。

 ええ、わかってます。わかってますとも。


 だから容赦なく、ありったけを──



「『コスミック・ブロー!』」



 ──ぶつける!!


 インパクトの瞬間、更に推進力を出すため、右腕のブースターが作動。


 メギョッッッッッ!!!!!!


 腹部を思い切り殴り付けると同時に巨体はくの字に折れ曲がり、煉獄の住人の体は僅かに浮かび上がった。



「!?!?!!!!???!?!!?」



 煉獄の住人は白い目を見開き、何かを吐き出すように口を大きく開く。

 膝をつき、腹部を抑えて動かない。

 死なないとは言っても、痛みは感じるみたいだ。



『む。今の一撃で吹き飛ばすつもりだったのですが』



 スフィアは今のでも不満な様子。

 しょうがないでしょ、こんなデカいんだし。



「コハクさん、やばすぎますよ〜……」

「クソ、負けねぇ……!」

「ロウン、コハク君と張り合うのはやめた方がいいですよ」



 あの、話してないで手伝ってくれません?



『コハク様、私もお手伝いします』



 今度はライガが、俺の頭上を飛び越えるように煉獄の住人へ迫る。


 両腕を空高く掲げるライガ。

 そして……。



『来い。──斬艦刀・雲龍』



 超がいくつ付くかわからない。

 それほど巨大な剣が、遥か上空に現れた。


 煉獄の住人とほとんど変わらない全長の超巨大剣。

 そのミニチュアサイズの剣が現れ、ライガが握る。

 剣を振るうと、上空の斬艦刀も同じ軌道で動いた。まるで遠隔で操作しているみたいだ。


 ライガは剣を振り上げて煉獄の住人へと狙いを定め。



『奥義──星断ち』



 振り下ろした。



「!!!!?!????!!!?!?!」



 斬艦刀が、煉獄の住人の頭頂部へと落ちる。

 刹那、煉獄の住人がついていた膝が大地に埋まり、頭部も地面にめり込んだ。


 暴風が周囲へ撒き散らされ、ボード森林の木々が吹き飛び、周囲がクレーターとなった。



『む? 本当に死なぬのだな。これを食らって生きているとは』



 生きてるの、あれで?

 本当に生者の攻撃じゃ死なないんだなぁ。



「凄まじいな、コハク殿。私もあそこまで行けるだろうか……」

「これほど、仲間でよかったと思ったこともねーや」

「さすがコハクさんですね〜。私も負けませんよ〜」



 コロネさん、ザニアさん、トワさんの声が聞こえる。

 こんな力を見ても、怖がるどころか頼りにしてくれるのか……なんか、もっとやる気出てきたぞ。



「ば……馬鹿な……煉獄の住人にダメージを与える、だと……!?」

『これがアンタが侮っていた幻獣種ファンタズマとコハクの力よ』

『ボクもあれくらいできるもんっ』



 戦闘特化じゃないスフィアでさえこの力だ。

 戦闘特化のクレアとフェンリルなら、ライガ並のパワーが出るだろうね。



「嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だぺにょっ!?」

『うるさい!』



 あ、またフェンリルにビンタされた。

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