煉獄──⑦

   ◆



『《天狼の撃鎮フェンリル・スタンプ》!』

「ッ!?」



 フェンリルの肉球から放たれた衝撃波がグラドを吹き飛ばす。

 超広範囲の衝撃波に避けきれず、腕をクロスしてガードしたが、吹き飛ばされた。


 攻めるなら今……!



「クレア!」

『ええ!』

「『《プラズマ・レイ》!』」



 超高速、超貫通の光線を放つ。

 が、崩したバランスを利用して寸前で避けられてしまった。


 けどその先は悪手だぞ。



『いらっしゃい』

『ここは死地ぞ』

「うっ……!?」



 高周波ブレードを構えたスフィアと妖刀村正を構えたライガが、瞬きをする間もなく振り抜いた。

 速すぎる斬撃に、グラドの両腕両脚は意図も簡単に斬り落とされる。


 再生するも、さっきまでの早さで再生できていない。

 明らかに弱ってるんだ、あいつも……!



「くっ……調子に乗るなよ!」



 漆黒の触手が蠢き、先端がガトリング砲へと変わる。

 まさかっ……!



「蜂の巣にしてやんよォ!!!!」



 触手を不規則に動かして撃ってきた!


 スフィアのガトリング砲は、毎分6000発の弾丸を放つ。

 それを無数に、しかも狙いを定めずに乱雑に撃ちまくれば、俺らの逃げる場所はなくなる……!



『防御フィールド!』



 スフィアの防御フィールドが俺らを包み込む。

 直後、防御フィールドを無数の弾丸が叩き、火花が散った。



「ありがとう、スフィア!」

『ありがたきお言葉です。……シッ』

『褒められて喜んでる場合じゃないわよ!』



 今はクレアに全面的に同意!


 膨大な魔力を練り、手の平に集中させる。



「『《絶死龍炎》!』」



 黒死炎の龍が、鉄の弾を蒸発させながらグラドへ向けて飛翔する。



「魔銀の盾!」



 が、それも魔銀ミスリルの盾で防がれる。


 そう来ると思ったぞ……!

 飛翔する《絶死龍炎》から手を離すと、目の前には巨大な魔銀ミスリルの盾が。


 フラガラッハを抜き、盾を注視する。


 見えた、赤い線……!


 フラガラッハに魔力を流し、威力を増大。

 そして、一閃──【切断】+魔人化のパワーで、巨大な盾を一刀両断に斬り裂いた。


 盾の先には、目を見開いて硬直しているグラドが。

 この巨大な盾を斬られると思ってなかったんだろう、反応が鈍い!



『《炎錠網・蛇尾》!』



 すかさずクレアが、捕縛用の魔法でグラドを縛る。

 動けば動くほど炎の蛇が食い込み、内側から燃やす捕縛魔法だ。



天狼の呪縛鎖グレイプニル!』



 更に大きな口を開けたフェンリルの前に魔法陣が現れ、そこから4本の鎖がグラドへ伸びる。

 四肢に巻き付き、更に喉にまで巻きついてグラドを締め上げた。



「捕縛完了。……てところかな」

「ぅ……ぐぞっ……!」



 動こうにも動けず、憎悪の表情を浮かべるグラド。

 でも縛られてるから、全然怖くはない。



「やっぱりこいつ、本体の強さは大したことないね」



 隠れて創造魔法を使って、武器や兵力を増強させる。そうすることで魔族全体の力を上げていたんだ。


 創造魔法の力が巨大すぎて、本体の力を見誤ってたんだな、俺たちは。



『コハク、ここは私とフェンリルに任せて』

『うん! ボクらで大丈夫!』

「……そうだね。ここまで雁字搦めにしていれば動けないだろうし。任せたよ、2人とも」



 クレアと魔人化を解き、今度はスフィアと魔人化する。

 全身をパワードスーツで覆われ、背中に三対六枚の漆黒の翼が生えた。



「それじゃあ、俺とライガは煉獄の住人のほうに……ん?」

「……ぶつぶつ……ぶつぶつ……」



 な、なんだ……? グラドの奴、ぶつぶつと何を……?



「お、俺は……俺は弱くない……弱くない……弱くない……弱くない……弱くない、弱くない、弱くない、弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くない弱くなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!!!!」



 うおっ!? な、なんだこの咆哮……!



『ふむ。トラウマに触れたか』

『弱いって言われて激昂するなんて、自分で認めてるようなものじゃない』

『ざーこ! ざーこざーこ!』

『仲間内でも雑魚と言われていたようですね。ふふ、惨めですこと』



 めっちゃ煽るね君たち。

 グラドの咆哮は続き、今にも憤死しそうだ。

 まあ、この程度じゃ魔族は死なないだろう。


 俺はクレアとフェンリルにこいつを任せ、ライガと共に煉獄の住人の元へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る