煉獄──⑥

 と、そこにアシュアが超高速で煉獄の住人へ向かう。



「俺たちの攻撃じゃ死なない体、ね。いいね。そういう相手を待っていたんだよ!」



 無数の剣撃で煉獄の住人に斬り掛かる。

 だが、いつも感じる手応えをまるで感じない。まるで死霊ゴースト系の魔物を普通の剣で斬っているみたいだ。



「ハッッッ!!」



 絶え間なく武技を放つことで、煉獄の住人を押し返す。

 が、煉獄の住人は煩わしそうに乱雑に腕を振るい、アシュアを叩き落とそうとする。


 身を翻して避け、更に武技を叩き込む。



「ははっ! これ、これだよ! どれだけ斬っても死なない相手! 敵! 俺の剣技の全てをぶつけられる!」



 今までのほとんどの敵は、1回の攻撃で斬り伏せることはできた。

 これほどまでに全力で剣技をぶつけられるのは、久々のことだった。


 そこに、さっき吹き飛ばされたロウンが戻ってきた。



「こんのォ! よくもまあ吹き飛ばしてくれやがって、ぶっ潰す!!」

「ロウン、行くぞ!」

「おうよ、アシュア!」



 まだコルに掛けてもらった身体強化魔法は解けていないのか、ロウンの体は淡く輝いている。

 その状態で拳を強く握り締めると、筋肉が隆起して一回り膨らんだ。



「やれやれ。僕を忘れてもらっちゃ困りますよ」



 と、コルが杖を構えて魔力を練る。

 膨大な魔力が杖に凝縮され、黄金に輝く魔法陣が展開された。



「行きますよ──《究極のアルティメット・獄炎エクスプロージョン》」

「魔闘殲滅流──破壊式・滅覇!」

「クロイツ流剣術──皇刃・倫!」



 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッッッッッ──!!!!!!


 ミスリルプレート3人の攻撃が煉獄の住人を大きくぐらつかせた。



「ッッッ──!?」



 思わぬ衝撃に煉獄の住人は目を見張った。


 間髪入れず、額に血管が浮き出るほどブチギレているトワが煉獄の住人の頭上へと飛んだ。



「クソチビ……あとで泣かすッ」



 両腕に漆黒の炎が灯り、螺旋を描き圧縮していく。

 圧縮した2つの炎を合わせ、煉獄の住人の頭部ほどの大きさに膨れ上がった。



「《深淵の龍炎アビス・ブレス》!」

「????」



 巨大な黒炎が頭上から煉獄の住人を焼き、全身に炎が回る。

 だが煉獄の住人は痛がる様子はなく、燃える手の平で虫を叩き潰すようにトワを襲った。


 それを避け、僅かに距離を取る。



「チッ。これでも死なないなんて、本当に生者の攻撃は効かないみたいですね」



 面倒くさそうに舌打ちをする。

 どれだけ攻撃してもぐらつかせるだけで押し返すまでいかない。

 強いとは言えないが、これほど面倒な相手は初めてだ。


 ──そんな総攻撃を、少し離れた場所から見つめるサーシャとアサシンギルドのミスリルプレートの3人。



「マスター、如何しましょう」

「分が悪いように見えますが」

「加勢しますか?」

「そうだねぇ……」



 総攻撃を見て、サーシャは考えを巡らせていた。



「奴の正体はわからないけど、あれを見る限り攻撃は全く効かないみたいだ。だけどレオンの黄泉からの攻撃は、多少なりとも効いている。ということは、ボクら生きてる者の攻撃は効かないと見ていいだろう」



 さっきの攻防だけで、煉獄の住人の特性を見抜いた。

 さすが情報収集に特化しているアサシンギルドのギルドマスターだ。



「ボクらの攻撃は、あんなに派手じゃないからねぃ。ボクらが加勢しても意味無いでしょ」

「なら、魔族の方へ?」

「ふむむ……」



 コハクとグラドが争っている上空を見つめる。

 コハク側から見えない斬撃、炎、未知の攻撃が放たれ、グラドはそれに対応している。


 昔舞台で見た、怪物同士の争いを生で見ているみたいだ。



「あれに混ざれる気がしない」

「「「同意」」」



 思わず苦笑いを浮かべるサーシャ。

 全員であれに混ざるのは自殺行為だ。



「……全員、直ぐに女王サマんとこ行って、今の状況を報告して来てちょ」

「全員で、ですか?」

「うん。念の為にね」

「……御意」



 3人は深々と頭を下げ、まるで空気に溶け込むようにして消えた。



「さてさてさーて、ボクはどうしようかねぇ……」



 サーシャは腕を組み、再度上空を見上げる。

 その目は鋭く細められ、何かを画策しているようだった。

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