煉獄──④

 斬った傷も一瞬で完治するグラド。

 だがその顔は、憎悪と憤怒に彩られていた。


 今まで人間相手にここまで追い詰められたことがなかったんだろう。

 明らかに激昂している。



「クソがッ……クソがクソがクソがクソがクソがァ……!!」

「どうやら魔族というのは、人間の言葉が苦手みたいだ。さっきから死ね、殺す、クソがしか言ってないよ」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッ──!!!!」



 大気を震わせるほどの咆哮。

 すると、グラドの背後に極大魔法陣が展開された。

 門が開くかのように、中心から割れた魔法陣が、徐々に開いていく。


 その先は空ではなく、漆黒。

 まるで空に穴が空いているかのような漆黒が広がっていた。



『うげっ、くさっ。あれくさいっ!』

『まずいわね、あれは』

『うむ。あのような気配、久々に感じた』



 みんなはあれに覚えがあるのか、さっきまで緩んでいた空気を引き締めた。



「ねえ、あれ何?」

『そうですね……言うなれば、この世ならざる者が住む世界、と言いましょうか』



 この世ならざる者?



『あれは煉獄の門。そしてその先に広がるのは、煉獄。この世とあの世の狭間の世界です』

「煉獄……」



 確かにあの漆黒の世界からは、ただならない気配を感じる。

 死を突きつけられているというか、そんな気配だ。



「アシュアさん、気付けてください!」

「ああ。わかってる」



 あのアシュアさんですら、剣を構えて動かない。

 それほどあれはヤバいということだ。


 直後──煉獄の門から、巨大な影が姿を現した。


 黒く、のっぺりとした体。

 目と思われる場所は白い穴が空いている。


 巨人。漆黒の体を持った巨人だ。


 まだ門から完全に体を出していない。

 が、ソレが俺らを一瞥すると──狂気に似た笑みを作った。



「くくく……まさかこれを呼び出す日が来るとは……」



 グラドは疲弊した顔でソレを見上げる。

 こんなものまで召喚できるのか、あいつは……。


 けどその弊害なのか、下の方で無限に湧き出していた擬似生命体は消滅した。



「煉獄の住人は生者の命を食らう。しかし、生者の攻撃では殺すことはできない……さあ、どうする劣等種人間?」



 なんつー面倒くさいものを召喚してくれてんだ、あいつ……!



「へぇ、殺せない、か……」

「え、アシュアさん?」

「……コハク君。グラドは君に任せる。あっちは俺たちに任せてくれ」

「え、でも……」



 殺せないのに、あんなのどうするんだ……?



「幸い、煉獄の門はまだ消えてない。あの門の向こうに押し返せばいい。その間に、君がグラドを殺すんだ。そうすればあの門は消えるだろう」

「あ、なるほど……わかりました」

「じゃ、よろしく!」



 アシュアさんは一先ず、みんなの元に降りていった。

 煉獄の住人を門の向こうに押し返しつつ、グラドを倒す……大変どころの問題じゃないね、これは。



「ふ……やって見ろ、小物が」



 少し力が回復したのか、グラドの手が高周波ブレードへと変わった。



「別に殺さなくても、捕獲していつでも殺せればいいだろ」

「やれるものならやってみろ。木っ端が」



 気力十分。

 俺らもグラドへ向け飛翔し、激突した──。

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