煉獄──②
「害虫……ふ、害虫か」
なんだ? これだけキレているみんなに囲まれてるのに、あの余裕は……。
グラドは両腕を広げ、悪意を煮詰めたような笑みを浮かべた。
『コハク、気をつけて』
クレアが警戒レベルを上げ、いつでも魔法を発動できるよう準備した。
当然俺も油断はしない。
フラガラッハを構え、グラドを注視する。
「俺がただの物を創るしか能がない奴だと、本気で思っているのなら……それこそお前らの脳は害虫以下だと思った方がいい」
「へぇ、何をしてくれるんだい?」
《剣聖の加護》を発動したアシュアさんが、グラドへ剣を向ける。
「くくく……確か、《剣聖の加護》だったか」
「それが?」
「こんな感じかな?」
ゴオオオオォォォッッッ──!!!!
グラドから吹き荒れるあの七色の光り……まさかっ!?
「ライガ、あれは……!」
『……完全ではありませんが、《剣聖の加護》に相違ありません』
やっぱり……!
稀に見る剣の才能に恵まれ、その才能を極限にまで高めていなければ得ることのできない《剣聖の加護》。
グラドの奴、それを
「物質を創るのは二流。一流は能力を創り出してこそ、だよ」
と、グラドは両手に大剣を創り出して構える。
そんなのありかよ、くそっ……!
「へぇ、なるほどね。擬似生命体を創らなくても、1人で戦うことができる……今までの余裕は、それがあったからってことかい?」
「その通りだ。俺は1人でもお前らを殺せる。さあ、俺にひれ伏せ、
どうする……どうするっ。
こんなヤバいのか、七魔極ってのは……!
さすがのみんなも動かない。
いや、動けないのか? とにかく、グラドを見て微動だにしない。
「ふむふむ、なるほどなるほど。……コハク君、ここは俺に任せてもらえないかい?」
「えっ、でも……」
「大丈夫。あれなら、俺一人でどうにかなるから」
明らかにグラドを舐めきった言葉。
その言葉に、みんなの緊張も一気に弛緩した。
『はぁ。何かと思えば、その程度でイキってたのね、アイツ。警戒して損したわ』
『然り。もう我らの出る幕はないな』
『ご主人様、ここはアシュア様におまかせしましょう』
『ボク、もつ寝ていい? いい?』
え……ええ……みんな、どうしたの一体。
その様子を見たグラドも、眉をピクリと動かした。
「……俺を舐めているのか? この力はお前と同等だぞ」
「うん、それは同じ力を持ってる俺がよくわかってる。……だからこそ、俺一人で十分だと判断した」
「ほざけ……!」
グラドがアシュアさんに向かい触手のような腕を伸ばす。
が、アシュアさんはそれを目にも止まらぬ速さで斬り刻んだ。
「ガァッ──!」
その隙に、グラドがアシュアさんへ肉薄する。
完全にアシュアさんの死角。まずい、このままじゃ……!
振り上げられた2本の大剣が、アシュアさんに向けて振り下ろされる──
「遅いよ」
「ッ!?」
──が、アシュアさんの剣がそれより速く大剣を斬り裂いた。
一瞬すぎる出来事に、グラドは目を見開き体を硬直させる。
「ほら、来なよ」
「ッッッ!!」
アシュアさんの余裕そうな言葉に、グラドの表情が憤怒に染まる。
無数に作られた両刃剣を触手が握り、上下左右前後からアシュアさんを襲った。
「クロイツ流剣術──円環輪」
アシュアさんが舞うように剣を振るうと、斬撃がアシュアさんを守るように球体となる。
球体の斬撃はグラドの創った剣を砕き、漆黒の触手もミンチにした。
「……すごい……」
アシュアさん、とんでもない強さだ。
でも同じ《剣聖の加護》なのになんでこんなに差が……?
首を傾げていると、隣にいるライガが口を開いた。
『コハク様、《剣聖の加護》とは、そのものに眠る剣の潜在能力を極限にまで引き出すちからなのです。いくらグラドが加護を使おうと、アシュア殿とは元の潜在能力が違います。なのでここまで力の差が出るのです』
あ、なるほど。そういうことか。
確かに、あれを見る限りアシュアさんが圧倒している。
みんなはそれを知ってたから、アシュアさんに任せたのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます