煉獄──①

   ◆



「ふぅん。やるね、君たち」



 グラドが冷たい目で俺たちを見つめる。

 その間も、グラドは疑似生命体を無限に創り出していた。


 今は下にいるみんなが凌いでくれている。

 でもこのままじゃいずれ体力負けしてしまうだろう。

 なんとか元凶であるこいつを倒さないと。



「それにしても、君たち意外と仲間意識低い? あんな簡単に仲間と同じ姿をした奴を殺すなんてさ」

『は? あんな欠陥品のどこが仲間よ。一緒にすんじゃないわよ』



 クレア、ブチ切れである。

 だけど気持ちはわかる。あんなのとみんなを一緒にしないでほしい。



「確かにあれは欠陥品だ。まだお前らの力を最大限引き出してないから。──でも、今ならどうかな?」



 ッ! まずい……!


 今はみんな、ほぼ全力を出して偽物を倒している。

 つまり、その状態のみんなをあいつは再現できるんだ。


 グラドが巨大な魔法陣を4つ展開する。

 くそっ、あんな力の偽物がまた作られたら、それこそ世界滅亡だ……!



『させませんよ』



 スフィアの腕が変形し、レーザー砲となってグラドを狙う。

 レーザーは魔法でも物理でもない超強力な未来の兵器だ。

 物理攻撃を弾く鋼鉄の盾も、魔法攻撃を弾く魔銀ミスリルの盾も、この兵器の前では無力。



『大人しく死んでください』

「それはできない相談だ」



 グラドの腕が組変わるようにして変形する。

 あれは……まさかスフィアと同じレーザー砲……!?



「創造を舐めちゃいけない。お前らの程度の力、簡単に模倣できる。──そこの男を殺されたくなければ、大人しく見ているといいよ」

『くっ……!』



 確かにあのレーザー砲の速度と貫通力はとんでもない。

 もし本気で俺が狙われたら、みんなでも防ぐのは難しいだろう。



「お前らにとって、そこの男は神にも等しい存在だろう? そんな男が死んでもいいなら、撃ちなよ。俺が死ぬ前にその男を殺してやるから」



 確かに……魔族の生命力なら、やりかねない。

 スフィアもそれを理解しているのか、レーザー砲をグラドに向けたまま動かない。


 他のみんなも俺を守るために前に立つけど、グラドを睨んでいて動かない。


 くそ、見てるしかできないのか、俺たちは……!



「くくく、どうだ劣等種人間。お前の存在が下僕たちの足枷となっている……弱いというのは罪だな」



 何も言い返せない。

 今の現状からしたら、グラドの言葉が全てだ。

 俺の存在が、みんなの足枷になっている。

 どうすれば……!



「さあ、これから現れる絶望の前にひれ伏せ──」






「残念だけど、ひれ伏すのお前の方だよ」

「────ッ!?」





 っ! アシュアさん……!


 突如グラドの背後に現れたアシュアさんが、問答無用で剣を振るう。

 寸前で避けたグラドだが、片方の腕を斬り落とした。


 そのおかげで、俺らの偽物を創り出そうとしていた魔法陣が霧散する。

 助かった、あのままじゃやばかったから……。


 斬られた腕から青い血が噴き出すが、その腕も一瞬で再生した。

 魔族の生命力も再生力は異常だけど、こいつは今まで出会ってきた中で1番早いな。



「貴様──!」

「ふーん、反応はいいね。殺すつもりで斬ったんだけど」

「殺す!」



 グラドがアシュアさんに襲いかかる。

 が。



『甘いですね』

「うっ!?」



 スフィアのレーザーがグラドを掠める。

 突然の攻撃でグラドがバランスを崩し、その隙をついてフェンリルとライガが迫った。



『フェンリル、合わせろ! 九鬼閃焔!』

『うん! 《天穿つ死の一撃フェンリル・ヴァン》!』



 ライガが大剣を構え、九つの炎の斬撃を放つ。

 グラドはそれを避けるが、次にフェンリルの放つ天穿つ死の一撃フェンリル・ヴァンがグラドの下半身を消滅させた。



「チィッ!」



 でも一瞬で再生するグラド。

 あまりにも速い。が、それを見てもみんな落ち着いていた。


 すると、スフィアがゆっくりと口を開いた。



『我々はご主人様が……至高の御方がいるからこそ、本気を出して戦えます。……ご主人様を侮辱した罪は重いぞ、害虫が』



 あ、これ落ち着いてる訳じゃない。


 静かに、ブチ切れていらっしゃる。

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