VS七魔極・創造──①

 魔銀ミスリルの盾が消え、その奥に異形の生物が現れる。


 人間と同じ形をしているが、肌は青く頭には一本の角。両手は異様に巨大化している。

 白目は漆黒。瞳は赤。

 そして背中には、まるで触手のように蠢いている無数の腕が生えている。


 あれが七魔極……確かに、今まで相手をして来た魔族の中では群を抜いて魔力が高い。

 それに、俺の生存本能がずっと警報を鳴らしている。


 あいつを相手にするのはヤバい、と。



「これは……想像以上だね」



 あのアシュアさんも、ひたいに冷や汗を流して剣を抜く。



「スフィア。もしかして、あいつもあの時の魔族と同じように何回も殺さなきゃダメなの?」

『いえ。今回は完全に封印を解くためだけに使われたようです。奴を倒せば終わります。ですが……』

「奴自身の強さが、常軌を逸している、と?」



 俺の質問に、スフィアは神妙な面持ちで頷いた。

 クレアの奇襲すら余裕で防がれた上に、あれだけ巨大な魔銀ミスリルの盾を作り出したんだ。こっちの攻撃は、ほとんど防がれると思っていいだろう。


 創造の名を冠する通り、生命だけでなく物質の創造も得意なんだな。



「みなさん。奴は一回殺せば死ぬそうです。数で言えば、こっちに分があります」

「コハク殿。数で分があるとはいえ……奴の強さ、とんでもないぞ」



 コロネさんが生唾を飲んでグラドを見る。

 確かにコロネさんの言う通りだ。存在感と魔力の圧だけで、絶望的な気持ちにさせられる。


 これがただの魔族と七人の最強の魔族の違いか……。



「……■■■■■■■■■■■■」



 ぐっ……! 相変わらず気持ちの悪い声だな……!


 まるでガラス玉のように無機質な目が俺らを見る。

 と、グラドは俺らに向けて右手を伸ばし。


 次の瞬間、背後に無数の魔法陣が現れ、そこからワイバーンの群れが現れた。


 10や20じゃない。100、200……いや、もっと……!?



「コル! コハク!」

「「はい!」」



 俺は両腕を、コルさんは杖をワイバーンの群れに向ける。



「《ドラゴン・ブレス》!」

「《ウィンド・バースト》!」



 俺が放った龍種ドラゴン最強の炎攻撃、ブレス。

 更にコルさんが風魔法を使い、威力と範囲を拡大。


 目の前に迫っていたワイバーンの群れを焼き払い、その奥にいるグラドへと迫る。



「《■■■■■■■■■■■》」



 チッ。また魔銀ミスリルの盾か……!

 魔銀ミスリルはその性質上、魔法攻撃を全て弾く力を持っている。

 その代わり物理攻撃には弱いが……奴の創造を考えると、物理攻撃にも即時対応してくるだろう。


 まずいな、これは。どうすればいいんだ。



「ねえ、これウチ帰ってもいい? 戦闘は君達の得意分野でしょ? ウチがいても足手まといだしさ」

「ここで帰ったら、さっきの約束は反故ですからね」

「そんな!? うぅ、わかったよぅ」



 というか、よくこんな状況で帰るだなんて言えるな、この人。



「奴は空を飛んでいます。まずは空を飛べる俺が見ますので、いつでも戦闘できるよう待機していてください」



 俺は炎の翼を羽ばたかせると、グラドと同じ高さまで昇った。

 俺の隣にはライガ、フェンリル、スフィアがいる。

 クレアとも魔人化しているし、出し惜しみしている余裕はない。こっちは最初から最高戦力で行かせてもらおう。



「スフィア」

『はい!』



 スフィアの両手が組み変わり、砲塔のように変わる。

 と、そこからミサイル弾が連射して放たれた。

 それを巨大な鋼鉄の盾で防がれる。

 だが爆発の震動と爆炎で、一瞬だが奴の視界は奪えた。



「ライガ、フェン」

『承知!』

『ウオオオオオオオオンッッッ!』



 2人が盾をかわすようにして背後に回り込み、攻撃を仕掛ける。

 魔族には幻獣種ファンタズマの姿は見えない。これなら……!



『ハッ!』

『ガルアァ!』

「■■■■■■■■■■」



 ぇ……避けられた!?

 そんなっ、魔族には2人の姿は見えないはずなのに……!


 2人の攻撃を避けたグラドは、背中から生やしている触手のような腕を使って2人に襲い掛かる。

 しかし2人もそれを余裕で避け、腕を切り刻みながら俺の傍に戻って来た。



『コハク、今の見た?』

「うん。完全に避けてたね」



 クレアも同じことを思っていたみたいだ。

 幻獣種ファンタズマの姿が見えるのは、俺を抜いたら魔物だけだ。

 気配を感じて避けたって感じではない。間違いなく、2人の攻撃を視界にいれてから避けたような動きだった。


 これはどういうことだ……?



『ご主人様。可能性の話ですがよろしいですか?』

「いいよ。話して」

『奴はこの森にいる魔物のほとんどを、封印を解くエネルギーに利用するべく吸収しています。ということは、魔物の力を少なからず持っていると考えていいでしょう』



 え……ということは!?


 スフィアに目を向けると、神妙な面持ちで頷いた。



『恐らく……奴には、我々の姿が見えています』

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