復活──③

「こ、これはっ……!」



 目の前には、見たこともない程の巨大な穴。

 底が見えない。深すぎる。

 そんな穴が、濃い紫色の光を放って鼓動を続けている。


 ここに、七魔極が……。



『コゥ!』

『ご主人様』



 フェンリルとスフィアが俺のところにやって来ると、跪いた。



『申し訳ございません、ご主人様。私どもの失態です』

『ごめんなさい……』

「いや、気にしないで。すぎたことはしょうがないよ」



 それより、まずはこの湧き上がってくるような嫌な気配をどうにかしないと。

 どうするか悩んでいると、後からやって来たサーシャさんが俺の背後に現れた。



「動くな。……お前が魔族か?」



 え? ……あ、そうか。魔人化した姿だと、気配とか強さとか変わるから、俺だってわかりづらいんだ。



「サーシャさん、俺です。コハクです」

「……えっ、コハク君……!?」

「はい。今は幻獣種ファンタズマと魔人化していますが、正真正銘、本物のコハクですよ」



 さすがに今魔人化を解くと、体力のほとんどを持っていかれるから解けないけど。

 でもサーシャさんは信じてくれたようで、両手に握っていたナイフを収めていそいそと前髪を整えた。



『! ま、まさかサーシャさんは……!?』

『スフィア、アンタの言う通りよ』

『くぅ……! いったい、私のいない数時間に何があったと言うんですか……!?』



 何が、て……う、思い出しちゃった。

 って、今はそれどころじゃない!


 改めて穴の底を見る。

 鼓動が早まり、光も気配も強まっている。このままじゃ……!



「全く~、コハクさん速すぎますよ~」

「これ、少年1人いればいいんじゃねーか? 俺らいらねーよ」

「ザニア。貴様、プラチナプレートとしての自覚を持てと言っているだろうが」



 更にトワさん、ザニアさん、コロネさんが合流し。

 その後にレオンさん、アシュアさん、ロウンさん、コルさんもやって来た。



「コハクくん、ここに来るまでに放心しているハンターたちがいたが、一体何があったんだい?」

「はい、アシュアさん」



 隠したら意味がないと思い、スフィアに教えてもらったことを伝えた。


 例の鳥が穴の中に入っていったこと。

 穴から現れた漆黒の腕に捕らわれ、90人のハンターたちが穴の中に連れ去られたこと。

 恐らく、封印を解くためのいけにえにされたこと。


 それらを伝えると、レオンさんは歯ぎしりをした。



「馬鹿な……! ここに来ているのは、各ギルドのプラチナプレートハンターだぞ、そんな簡単に……!」

「マスター。それ程、この中にいる敵は異常な強さを持つのでしょう」



 プラチナプレートは、次期ミスリルプレートハンターの候補生として位置づけられる。

 つまり、各ギルドのエリート中のエリートだ。

 それが90人も……説明した俺も、とてもじゃないけど信じられない。



『コハク、油断するんじゃないわよ』

(……うん。わかってる)



 この底から湧き上がってくる不快感。

 油断していたら、こっちが殺される。そう予感させられるものだ。


 …………ッ!?



「スフィア!」

『防御フィールド!』



 スフィアがドーム状の防御フィールドを展開。

 直後、穴の底から伸びてきた無数の漆黒の腕が防御フィールドに阻まれた。


 これが、ハンターたちを捕まえた腕……。



「この腕、1つ1つからゴールド並みの気配を感じます。それがこんなに……」



 コルさんの言う通り、腕だけでこんな禍々しい気配を放つなんて……。

 俺らを捕らえられないとわかったのか、腕は一旦穴の中に戻っていくと。


 ゴオオオオオオオォォォッッッ!!!!


 穴全体から、まるで天を衝く漆黒の柱のように巨大な腕が現れ、それが渦を作って凝縮していく。

 腕が巨大な球体になり、圧縮し、圧縮し……小さい、漆黒の球体となった。

 球体の中心から徐々にひびが入っていく。


 まるで、卵から孵化する雛鳥のように。


 ということは、今が好機──!



「クレア、行くよっ」

『ええ!』



 両手を前に突き出し。

 燃え盛る腕の炎が、高温となって白みを帯びる。



「《ヘブンズ・バースト》!!」



 炎系統の中でも頭一つ抜きん出た貫通力と破壊力を持つ白炎。

 それが渦を巻いて、漆黒の球体へと放たれた。


 が──。






「《■■■■■■■■■■■■■■》」






 ──突如目の前に現れた巨大な魔銀ミスリルの盾により、俺の攻撃は阻まれた。


 それにこの声とも音とも捉えられる不快なノイズ。

 くそ、遅かったか……!



「七魔極、創造のグラド……!」

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