復活──②

   ◆数分前◆



 その鳥の奇妙な行動は、ボード森林中にいたハンターたちも見ていた。



「なんだァありゃ?」

「さあな。鳥だろ」



 森中のハンターたちは首を傾げる。

 この森に入って数時間。あんな鳥は見ていない。

 ということは、だ。



「ねえ、まさかあれって、例の擬似生命体ってやつじゃない?」

「可能性はあるな」

「もしかしてあれを追えば、封印場所を割り出せるんじゃ?」



 考えることは、一緒だった。


 一斉に鳥を追いかけ、走り出すハンターたち。

 森中に散らばっていたハンターたちが、ある場所を目掛けて走り出す。


 そこは、ボード森林の最奥にして中心。


 まだ探索の行われていないその場所に、妙なものがあった。



「……穴?」

「穴だ……」

「でかい穴ね……」



 反対側までおよそ数キロ。

 底が見えない。いったいどれほど深いのか。

 そこに、各ギルドのハンターたちが集まって来た。



「ここまで来て、ようやく嫌な感じがするぜ」

「厳重な封印ね。でも少しだけ魔力が盛れ出してる感じがするわ」

「ここに魔族が……」



 穴の縁に立っているだけで、引きずり込まれそうな嫌な感じがする。


 そんな穴の中目掛けて、数百、数千。いや、数万の鳥たちが一斉に入っていく。

 脇目も振らず、ただ一直線に。


 ここにいるのはプラチナプレートのハンターたちだ。

 数え切れない程の死線を潜り抜け、修羅場を乗り越えてきた猛者。


 彼らの今までの経験と感が告げている。


 ここにいるのはまずい、と。



「────ッ! 全員逃げ──」



 その言葉が最後まで発せられることはなかった。

 鍛え上げられた危機察知能力と動体視力を置き去りにするようなスピードで、穴の中から数え切れない程の漆黒の腕が伸び。


 穴の近くにいたハンターの半数……およそ70人が、穴の中へと引きずり込まれていった。



「り、リーダー!」

「やめろっ、もう遅い!」

「っ……うぅ……!」



 運良く腕をかわした半数は、脇目も振らず森の中を駆ける。

 しかし、漆黒の腕は蛇のように蠢き、迫る。

 鬱蒼とした木々や茂みに足を取られ、上手く走ることができない。



「チィッ! オルァ!!」



 振り向きざまに剣を振るうハンター。

 一つ、二つと斬り刻む。

 斬られた腕は煙のように消えていくが、次々と襲いかかってくる数が尋常じゃない。


 丁度二桁の腕を斬ったところで攻撃がついて行かず、無数の腕により四肢を固定され、引きずるようにして穴の底へ持っていかれた。


 その様子を望遠で見ていたスフィアが、苦々しい顔を浮かべる。



『まずいですね、これは』

『スフィア、どしたの?』

『火精霊を騙っていた魔族と同じです。人間の命を吸収し、エネルギーに変えて封印を解いているのです』

『! 大変! コゥに伝えなきゃ!』

『いえ、恐らく──』






 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッッ──!!!!






『──手遅れかと』



 穴から禍々しいオーラが吹き荒れ、空に暗雲が立ち込めた。



『七魔極の封印は強力です。ここに住み着いている魔物だけでは、封印を解く力は足りなかったのでしょう。人間をおびき寄せ、その生体エネルギーを吸収し、封印を解く。……我々はまんまとおびき寄せられたのです。封印を解く餌として』


 憎々しげに歯軋りをするスフィア。


 気配からして、生き残ったのは145人。

 およそ90人以上が、あの腕に持っていかれた。


 と、その時、頭の中にコハクの声が響いた。



『スフィア!』

『まずいです、ご主人様。……七魔極、創造のグラドが復活しました』



   ◆



 やられた……!



『コハク、急ぐわよ!』

「わかってる!」



 超高速で森の中を駆け抜ける。

 と、至る所で放心状態のハンターたちを見かけた。

 傍で仲間が連れて行かれ、それを助けられなかったんだ……くそっ、俺の責任だ……!



『違うわよ、コハク。これはアンタのせいじゃないわ』

『然り。ここにいる全員、死を覚悟して来ています。魔族を相手にする以上、不測の事態は起こるべく起こりますから』



 クレア、ライガ……ありがとう。


 俺は気を引き締め直して2人を連れて森の中心へ向かい。


 そして──。

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