秘密──④
「どーよ、ウチ強いっしょ?」
「え、ええ。そうですね。驚きました……」
「にひー。そんな大天才だなんて~」
いやそこまでは褒めてない。
それにしても、気を抜いていたところを襲われると、精神的にかなり削られるな。
気を引き締めていても疲れるし……これは、思ったよりきついことになりそうだ。
そっと嘆息すると、クレアが俺の肩に乗った。
『コハク、少し離れた場所で休んでた方がいいんじゃない? これだけ人数がいるんだし、少しくらいいいと思うけど』
「いや。スフィアとフェンも頑張ってるんだ。主人である俺が音を上げるわけにはいかないよ」
そっとクレアの頭を撫でる。
クレアも俺の身を案じて言ってくれたんだと思うけど、みんなに任せきりにしちゃうのは自分の心情的に許せないんだ。
『全く、コハクは優しいんだから……』
『然り。しかしコハク様。本当に辛かったら、休むのも戦いの内です。無理していざというときに戦えなくなったら、それこそ本末転倒ですぞ』
「うん、わかってるよ。ありがとう」
俺のことを第一に考えてくれるみんなの方が、優しいと思うけど。
いつも助けられてるし。
みんなに聞こえないように話していると、トワさんがこっちにやって来た。
「コハクさん~、大丈夫ですか~?」
「はい。今のところはなんともないです」
「それはよかったです~。でもこういった待つだけの戦いというのは、実戦経験の差が大きく出ます~。慣れ、とは言いませんが~、それまでは無理はしないでくださいね~」
「う……はい」
やっぱり、さっきのレッドマンティスは俺が油断したせいってわかってるか……。
なんとか気を引き締めて行かないと。
それにしてもワイバーン、ウルフ、レッドマンティス……どれもこれも、群れになったらゴールド依頼並みの強さになる。
下手すると、プラチナ並みになることも……。
いくら今回来ているハンターがプラチナプレート以上だからって、油断している時に来られたら死人が出てしまってもおかしくない。
これは早くなんとかしなしとな。
「スフィア、聞こえるか?」
『はい、ご主人様』
問いかけると、頭の中にスフィアの声が響いた。
「どう? 何か見つかりそう?」
『申し訳ありません。今はまだ……。フェンリルも探しているのですが、手掛かりになるようなものは見つかりません』
「わかった。引き続きよろしくね」
『はっ!』
範囲を絞って、スフィアとフェンリルが集中して探してもまだ見つからない、か。
一体どこに封印されているんだ……?
「……ぅ。ご、ごめんコハク君。ウチ、ちょっと用事が……」
「え、用事?」
見ると、サーシャさんがちょっとモジモジして森の中を見ていた。
用事、用事……あ。
「そういうことですか。いいですよ」
「い、いや違うからっ。別にトイレとかじゃなくて……うぅ、ちょっと行ってくるねっ!」
相当我慢していたのか、消えるようにして森の中に入っていった。
そんなに我慢してたなら、別に俺に言わなくてもよかったのに。
『ねえコハク。アイツ大丈夫かしら? この森、油断してるところに魔物が襲ってくるでしょ?』
「まあ、サーシャさんなら大丈夫……の、はず」
でも……排泄中に襲われたら、どんなに強くても万が一があるかも。
これ、一応護衛としてついてった方がいいかな。あの人は守られるのが嫌みたいだけど、それで死なれたら困る。
「すみませんみなさん。ここよろしくお願いします!」
「あ? コハク?」
ロウンさんの声を後ろに聞き、急いで森の中に入る。
『コハク様。50メートル先の小川です』
「わかった」
あの人の気配、俺じゃあ探知できないから助かる。
森の中を滑るように走って行く。
そこに、小川に向けてしゃがみこんでいるサーシャさんがいた。
よかった。魔物はいないみたい……ッ!?
「サーシャさん!」
「え? キャッ……!」
突如現れた体長3メートルもある熊型の魔物。人間から魔物、鉱物まで食い散らかす超雑食の魔物だ。
一体だけだが、そんな魔物がサーシャさんの目の前の茂みから襲い掛かる。
突然のことで足がもつれたのか、サーシャさんはしりもちをついてしまった。
チッ、間に合え!
フラガラッハを抜き、更に加速。
注視し、赤い線を確認。
「【切断】!」
巨体の肩から腰にかけ、袈裟斬りで斬殺した。
はぁ……間に合った……。
フラガラッハを鞘に納め、サーシャさんの方を向く。
「すみませんサーシャさん。守るなと言われてましたけど、この森は危険です。勝手ながら、守らせて…………………………ん?」
『あれ? この子……』
『やはりか』
クレアは俺と同じ気持ちらしい。
逆にライガは気付いていたみたいだ。
呆然と俺を見上げるサーシャさん。
ズボンを下げたまま、まだしりもちをついている。
丸見え。そう、丸見えなのだが。
…………。
お……女の子……!?
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