秘密──②

 プラチナプレートのハンターたちが森に入っていく。

 この大人数で探索すれば、思いの外早く見つかるかもしれないな。



「……それでサーシャさん。行かないんですか?」

「うん。ウチはアサシンギルドの司令塔みたいなもんだからね。ここでのんびりさせてもらうよ」

「そう言って、行くのが面倒なだけじゃ?」

「あはっ☆」



 隠すつもりもないのか、この人は。


 嘆息し、周りを見る。

 レオンさんは数人のプラチナプレートハンターに指示を出し、仕入れた情報を随時地図の上に書き込んでいる。

 トワさんたちも、使い魔を使って随時情報を集めていた。


 俺も、スフィアから連絡がない限り暇だしなぁ……。



「サーシャさんって、おいくつなんですか?」

「何さ、藪から棒に」

「ただ待ってるだけって暇で」

「確かにねぃ」



 くすくす笑うサーシャさん。

 やっぱこの人も暇してるんじゃないか。



「ま、その質問に答えるとしたら、教えないだね」

「それはアサシンギルド的にですか?」

「そうそう。自分の情報はなるべく公開しないようにしてるんだ」



 そうか。殺人を生業にしてるから、情報は外に出さないようにしてるのか。



「じゃあ名前も偽名なんですか?」

「いや、これは本名」

「それは名乗っていいんですか……?」

「家族なんていないし、家名は名乗ってるだけ。サーシャって名前、可愛いでしょ?ウチの数少ない自慢だから、隠してないのさ」



 実質、この人のことを名前から調べることはできないからってことかな。

 大した自信だ。



「出身は?」

「教えない」

「性別は?」

「教えない」

「今まで何人殺してきました?」

「教えない」

「1番難しかった仕事は?」

「教えない」

「楽しかった思い出は?」

「教えない」

「アサシンってどんなスキルがあるんです?」

「教えない」

「好きな食べ物は?」

「ガトーショコラ!!」



 それは答えるんかい。



「いいよねぇ、ガトーショコラ。あの甘みと舌触りがサイコーなんだよぅ」



 頬に手を当ててうっとりとするサーシャさん。

 覆面の下だからわからないけど、この様子からして相当好きみたいだ。



「どこのガトーショコラがおすすめですか?」

「そうだなぁ。アレクスの貴族行きつけのお菓子屋さんがあるんだけど、そこがウチの中でベストかな。あ、トワちゃんの作ったガトーショコラもすっごい美味しいんだよっ」

「あー、トワさんお菓子作り好きですからね。俺もあの人の作るクッキー、好きですよ」

「だよねっ、だよねっ! いやー、わかってるねぃ、君ぃ!」



 ニコニコとお菓子の良さを語るサーシャさん。


 この反応。どうやらガトーショコラだけじゃなく、甘いものが好きみたいだ。



『コハク、話すのはいいけど、あんまり仲良くするのはダメよ。こいつ危険だわ』

『よいではないか、クレア。コハク様も同い歳の友人が欲しい年頃なのだ』

『いくら欲しいからって、いきなり攻撃してくる奴は危険! ダメ!』



 ギャーギャー、ワーワー!

 あの、耳元で騒がないでもらえると嬉し……え、同い歳?



「……20歳?」

「ッ!?」

「もがっ!」



 ちょっ、口と鼻塞がないでっ! 息っ、息できな……!


 サーシャさんは瞬時に周りを見渡し、ギラついた目で俺を睨む。



「ど、どこでウチの年齢を知った……! ギルドの仲間にも明かしてないのに……!」

「もがっ、もがぁっ……!」

「あ、ごめん」



 ぶはっ! げほっ、げほっ……!



「し、死ぬかと思った……」

「ごめん。反射的に窒息させようとしちゃった」



 反射的に窒息させるとかやめてもらえませんかねっ! あと数秒塞がれてたらマジで死ぬところだった!



「それで、いったい誰に聞いた?」

「な、仲間の幻獣種ファンタズマに……」

「……そう。そういえば君、伝説の幻獣種ファンタズマテイマーだったね。幻獣種ファンタズマの前では、隠し事すらできないのか」

「すみません……」

「いや、いいさ。ただ、ウチのことは誰にも話さないこと。いいね?」

「わかってます」



 ここまでして隠したがるんだ。わざわざ言いふらすマネはしないよ。



「本当にわかってる?」

「ええ。大丈夫で──」

「本当に?」



 俺を見るサーシャさんの目は、攻撃してきた時と同じ闇を孕んだような漆黒の目をしている。


 誰かに言えば殺す。


 目が、そう言っている。



「……ええ。絶対に」

「……わかった。みんなが信じるコハク君を信じるよ」



 さっきまでの闇深い目はどこへやら。

 一転して、花が咲いたような笑みを浮かべた。

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