秘密──①

   ◆



 その後、ボード森林の探索を3日後から行うことを話し合い、その場は一旦解散となった。


 宿フルールで俺らが宿泊している部屋に戻ってくると、荷物を置いてベッドに横になる。



「はぁ。怖かった……」

『全くもう! あのサーシャってやつ、なんなのよ! 私おこよ! 激おこよ!』



 はは……まあそうだよね。いきなりあんな殺す気満々の蹴り、俺もびっくりした。



『ご主人様、やはりあのような者に背中を預けるのは無謀なのでは?』

「いや、そうでもないよ。俺はアサシンギルドであの人と話した時から、サーシャさんたちなら大丈夫って確信してる」

『確信、ですか?』



 みんなはわからないのか、首を傾げた。



「ああいう大金で動いてくれるタイプの人間は、それ以上の大金を払わないと簡単には裏切らないよ」

『どうしてそんなこと言えるのよ』

「ギルドは信用商売だからね。一度の裏切りが、後々ギルド全体の信用に繋がる。だからだよ」



 ここで裏切ってあの人達が何もしなければ、その噂は瞬く間に広がって誰もアサシンギルドに依頼しなくなる。

 そうしたらギルド全体の収益も下がるし、ハンターたちは食っていけなくなるからね。


 特にあの人たちは金に執着してたみたいだし。

 だから裏切らない。そう確信している。

 あの時攻撃されたのは、恐らくサーシャさんの地雷を踏んじゃったからだろう。

 その辺は、俺も気を付けないとな。


 俺の説明に納得いったのかいってないのか、クレアは複雑そうな顔をした。



『むぅ……でもいきなり攻撃してきたのは納得いかないわっ』

『コゥ、噛み殺す? 噛み殺す?』

「フェン、俺は大丈夫だから」



 それに嬉々として噛み殺すを連呼しないで。ちょっと怖いから。


 でも、なんで守ってもらうことにあそこまで拒否反応を示すのか……気になるな。



「スフィア。サーシャさんについて何かわからないかな?」

『わかります。ですが恐れながら申しますと、人には知られたくないことの一つや二つは持っています。ですので……』

「……確かにマナー違反か。いや、気にしないで、スフィア」



 そうだよね。俺にだって秘密にしたことはある。

 あんなに怒っていたんだ。それを無理に調べるなんて、さすがにダメだよね。



「ま、この仕事が終わるまでは協力関係だ。みんなも、あんまり目くじら立てないようにね」

『そんな喧嘩っ早くないから大丈夫よ』

『うん! ボクもだいじょーぶ!』



 うんうん。いい返事だ。



『私とライガはともかく……』

『この2人、心配であるな』



 言うな、2人とも……。



   ◆



 そうして3日後。ボード森林の手前でに集まったテイマーギルド、バトルギルド、アサシンギルドの面々。

 各ギルドのプラチナプレートは総勢200人以上……凄い。こんなにいるんだ。


 そんな俺らの前に立つ、各ギルドの長とミスリルプレートのハンターたち。

 アサシンギルドはサーシャさんを含め、全員覆面をしている。極力顔を知られたくないみたいだ。


 そんなサーシャさんの後ろに控えているのは、3人の男女。

 全員覆面を付けてるし、黒いで身を包んでるから体格はわかりづらい。

 でも、この何も感じない感じ、、、、、、、、……完全に自分の力を隠していて、返って手練れ感が醸し出されている。

 あの人たちが、アサシンギルドのミスリルプレートか。


 のはいいんだけど……。



『あぁん? おぉん?』

『ガルルルルルルルル……!』



 クレア、フェンリル。そんな思い切りガン付けるんじゃないの。戻って来なさい。


 2人が手を出さないかハラハラしていると、レオンさんが代表して前に出た。



「全員に通達している通り、ボード森林に魔族が封印されている可能性がある。プラチナプレートの各員は、その封印箇所を発見すること。万が一封印が破られた場合は一も二もなく逃げるように」

「「「はい!!!!」」」



 お、おお……さすがレオンさん。

 プラチナプレートのみなさんも、魔族がいるってわかってるのに全然怖がってない。



「この森に潜む魔族は、油断している者に絶妙なタイミングで魔物をけしかけてくる。よって1人での行動は禁止だ。必ず、3人以上で行動すること」



 なるほど。そうすれば誰かの集中力が切れても、他のメンバーでカバーできるってことか。


 そんなことを考えていると、みんな同じギルドのメンバーとチームを組みボード森林へと入っていった。


 よし、俺も。



「コハク、君はこっちだ」

「っと。あ、はいっ」



 レオンさんに呼ばれてそっちに向かうと、変に悪目立ちをしたのか全員こっちを向いて来た。



「コハク、君はプラチナプレートだが、探索には参加しなくてもいい」

「え、なんでですか?」

「君の力はこの中で抜きん出ている。よって、魔族が復活した際にはオレたちと共に戦闘に参加してもらう」



 あ、そういうことか。



「はい、わかりました」



 と言っても、俺だけただ待ってるのもあれだし……。

 フェンリルとスフィアを見る。俺の意図を察してくれた2人は、頭を下げてボード森林へと入っていった。


 かくして、ボード森林探索の人海戦術が始まった。

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