闇ギルド──②
サーシャさんは座っていた机から飛び降りると、手を上げて刃を下ろさせた。
俺をフィンガーサインを出し、クレアとライガを落ち着かせる。
念の為、防御シールドは張ったままだ。
サーシャさんは軽やかな足取りで俺に近づいてくる。
……いや、軽やかどころではない。まるで空気……そこにいるのに、いないかのような感覚に陥る。
注視してもしてなくても、見失ってしまいそうだ。
全ての動きに意味がありそうで、意味はない。
外側は誰も寄せ付けない重厚な鎧。
だけど中身は空っぽ。
そんな印象を抱かせる人だった。
「あはっ。そんなに警戒しなくてもいいよぅ。君のことはよーく知ってるんだからさっ」
「知ってるというより、調べたんじゃないんですか?」
「そーとも言えるだろうし、そーじゃないかもしれない」
……掴みどころのない人だ。
軽やかに近づいてきたサーシャさん。
けど、防御シールドの1歩手前で止まった。
まるでそれが見えてるかのように。
「こっから先には行けそうにないねぃ。ウチの直感がそう言ってるよ。なるほど、これが
「お察しの通りです。どれだけいようと、俺を傷つけることはできません」
さっと周りを見渡す。
多分、ここにいるのが全員じゃない。
部屋の外。壁の中。そして教会の周辺。
あの隠れていた人達全員、アサシンギルドのハンターに違いない。
『ご主人様。全部で368人ほどがご主人様を見張っています』
「368人……意外と多いな」
俺の呟きに、アサシンギルドのハンター達に緊張感が漂った。
サーシャさんと他数人の気配は変わらない。
けど、それが逆に認めてると言っている気がした。
「……それは君が見破ったのかな? それとも
「さあ、どうでしょう」
俺の言葉に、サーシャさんは目を細める。
ま、この人の洞察力と観察眼の前には、隠しても無駄だろうけど。
「ふーん……ま、いいや。着いてきて」
「え? あの……」
サーシャさんは俺に背を向け、少しだけこっちを振り向いた。
「実際に話してみて、君に興味が出た。いいよ、お話しよ?」
◆
サーシャさんの後について行き、アサシンギルドの奥に進む。
他の人には待機命令を出てたから、この近くに人はいない。それはスフィアの探知でも確認済みだ。
それにしても、まるで迷宮みたいな作りだ。
教会が建てられた時からあったんだろうけど、どうしてこんなものが教会の地下に……?
周囲を見渡していると、ランタンを持って先導していたサーシャさんがくすくす笑った。
「不思議? ここが迷路みたいで」
「……そうですね。不思議と言うより、違和感があります」
「そうだよねぇ。ま、理由は簡単だよ。腐った教会側が、信者を弄ぶために作った秘密の場所なんだ。100年前のアサシンギルドが教会の人間を皆殺しにして、ここをアジトにしたってわけ」
思ったより理由がクソだった……。
なるほど、だからこんなに色んな部屋があって、複雑な作りなのか。
サーシャさんについて行くこと十数分。
【ギルドマスター室】の看板が掛けられた部屋に辿り着いた。
「さ、どうぞ」
「……お邪魔します」
促されて中に入る。
ここが、アサシンギルドのギルドマスター室か。
壁も床も天井もレンガで、床には資料や本が散らばっている。
壁には指名手配書が貼り付けられていて、何人かにはバツ印がつけられていた。
「それで、お話って言うのはボード森林の魔族のことかい?」
「……知っていたんですか?」
「というより、テイマーギルドとバトルギルドの動きが怪しいって情報が入ってきたからねぃ。盗み聞かせてもらったぜ?」
え、盗み聞き……? 誰も気付いてなかったみたいだけど……。
『ご主人様、本当です。あの場で気付いていたのは、トワ様とレオン様、アシュア様のみです』
そうだったのか……全く気付けなかった。
サーシャさんはソファに座ると、俺にも座るように目で促して来た。
「話し合いの内容としては、七魔極、創造のグラドを封印場所を見つけるために、ウチらに協力して欲しいってところかな」
ホント、なんでもお見通しって感じだな。
「おっしゃる通りです」
「でも場所の特定なら、テイマーギルドの
「確かに、場所の特定だけならそうですね。でも今回は広大な森林で、明確な場所もわかりません。なので気配探知に秀でているアサシンギルドの皆さんに手伝ってもらいたく、こうしてやって来ました」
スフィアの探知も、範囲が広くなればなるほど精度が落ちる。
範囲を狭めればいいんだろうけど、それだと何日掛かるかわかったもんじゃない。
いつ封印が解けるかわからない以上、悠長にしている暇はないんだ。
「なるほどねぃ。君達の事情はよーくわかった」
「じゃあ……!」
「ま、それを聞いた上での答えなんて1つだよね」
にっこり。
「お、こ、と、わ、り♪」
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