闇ギルド──③
──お断り、か。
「理由を聞いても?」
「メリットがないからさ。ウチはアサシンギルドのハンターの命を預かるギルドマスター。メリットのない依頼は受けられない」
ふむ。メリット……確かに。
今回の依頼は、むしろ危険なことの方が多い。
魔族ですら普通のハンターじゃ手に負えないのに、今回の相手は魔族の中でも超上位存在だ。
メリットもないのに、命を賭ける仕事をする意味はない。
「戦闘はバトルギルドとテイマーギルドが行います。アサシンギルドの皆さんには、封印場所を探すお手伝いをして欲しいだけなんです」
「それでもだよ。いつ魔族が復活するかわからない場所なんて、危険すぎるじゃないか」
「……このままじゃ、世界が滅ぶとしても?」
「ブルムンド王国最高戦力が集結して勝てないなら、結局ウチらが手を貸しても無駄だと思うけどねぃ」
手を組んでずっとニコニコしているサーシャさん。
この人、何を考えてるのかわからないな……。
『コハク、どうする? このままじゃ手伝ってもらえそうにないけど』
どうすると言われても……うーん、どうしよう。
手を組んでどうするか考えていると、サーシャさんはそっと嘆息した。
「……コハク君。君わかってないね?」
「はい?」
「ウチらはアサシンギルド。悪人限定だけど、殺人を生業にしているギルドさ。さて問題。何故人を殺して生計を立てているかわかる?」
何故人を殺して……?
そう言われると悩む。人を殺していい理由なんて、なさそうだけど。
「ふふ。答えはね──金のためだよ」
「……え?」
さっきまでニコニコしていたサーシャさん。
でも今は瞳孔の開いた目で無表情に俺を見つめていた。
「ウチらは金の為に人を殺している。金のために動く。金を払えばなんだってする。そういうアウトローな人間が集まったのが、アサシンギルドなんだ」
…………。
「要は、金を払えば手伝ってくれるってことですか?」
「そうそう。ま、依頼料ってやつだねぃ」
まあ、これはバトルギルドとテイマーギルドではなく、俺個人からの依頼だ。依頼料として、金を払うのは当たり前か。
「いくらでしょうか?」
「話が早いね。今回の依頼のヤバさ。それにプラチナプレート以上を動かすとなると……白金貨500枚が妥当かな」
「わかりました」
「……へ?」
スフィアに預けていた麻袋を受け取り、机の上に乗せた。
「白金貨500枚あります」
「ま、え、ちょ……マジ?」
「ええ。これでも色々儲けてますからね」
助かった。マグマ草の採取とワイバーンの40体の討伐で、ギリギリ届いてたんだよね。
金なんていくら持っててもしょうがないし、使える時に使った方が経済も回るからな。
「どうしてそこまで金に執着してるのかはわかりません。ですが、必要なのであればいくらでも用意します」
みんなにすごく迷惑を掛けちゃうことになるけど……ごめんね、みんな。
『コハク。アンタ今、私達に迷惑を掛けるって思ってるでしょ。迷惑だなんて思わないわよ。アンタの願いなんだから』
『左様。コハク様に仕えることこそ我らの史上の喜び』
『ご主人様、ご安心ください。私達は何があっても、ご主人様のご命令に従います』
みんな……ありがとう。
心の中で感謝を伝え、改めてサーシャさんを見る。
丁度数え終えたのか、白金貨を麻袋に戻して苦笑いを浮かべた。
「確かに白金貨500枚ある。いやぁ、まさか現ナマで持ち歩いてるとは思わなかった……」
「どうです? 引き受けてくれますか?」
「こんなことされたらねぃ。オーケー、ウチを含めた50人でよければ、やってあげるよ」
「……ありがとうございます」
意外だ。こんな簡単に引き受けてくれるとは思わなかった。
でも、それだけこの金がこの人にとって……いや、この人達にとって、魅力的なものってわけだ。
「それにしても意外だねぃ」
と、口にしたのはサーシャだった。
「……何がですか?」
「いやぁ、君のことは色々調べたけど、調べれば調べるほど、君は信念を持った人だと思ってたよ。まるで、誰でも助けるヒーローみたいに。それが、金にものを言わせてウチらみたいなのに頭を下げるとはねぃ」
ヒーロー……ヒーロー、か。
俺はそんな大それたものじゃない。それは俺が1番よくわかってる。
でもサーシャさんの言う通り、本当ならこんなことはしたくなかった。
けど──。
「このまま指をくわえて見てたら、世界の誰かが傷付く。それを守れるのなら、俺は喜んで金にものを言わせて頭を下げます」
偽善だろうと構わない。
エゴだろうと構わない。
目の前で苦しむ誰かがいる。
その人達を守れるのなら、俺の頭の1つや2つ安いものだ。
そんな思いを込めて、真っ直ぐサーシャさんを見る。
サーシャさんも、俺の真意を見抜くように見つめてきた。
「……なるほど。君はヒーローなんかじゃないね」
「わかってくれました?」
「うん。変人だ」
失敬な。
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