闇ギルド──①

   ◆



「ここがアサシンギルド……闇ギルドか」



 アレクスの街。

 テイマーギルドとは正反対の区画にある、酷く寂れた区域にやって来ていた。


 目の前にはボロボロで今にも崩れそうな廃教会がある。

 スフィア曰く、ここの地下に闇ギルドの本拠地があるらしい。


 この場所を知っているのは、各ギルドのギルドマスターも、プラチナプレート。そして女王陛下だけらしい。


 闇ギルドと言ってはいるが、一応国営の公的機関。

 殺人を生業にしているといっても、犯罪者専門の殺人ギルドらしい。



『血なまぐさい臭いがぷんぷするわね』

『くしゃい……』

『フェンリル、大丈夫ですか? 防臭フィールドを張りますね』



 アサシンギルドを前に、みんなもピリピリしてる。

 犯罪者専門と言っても、殺人には変わりないからね。かくいう俺も、少し緊張してるし。


 それに──。



『コハク様』

「うん。わかってる」



 囲まれてる。しかも、かなりの人数だ。

 辺り一帯に殺気が立ち込めているけど、明確な場所はわからない。うまく隠れてるな。


 絶海の孤島大陸で鍛えた気配探知でも追えないだなんて……相当の手練みたいだ。


 でも、今すぐ手を出してきそうな雰囲気はない。

 静観ってことかな。



「……行こう」



 みんなを連れて、教会に入る。

 中もボロボロだ。椅子も何もかも壊されてるし、埃も汚れも目立つ。


 けど……ステンドグラスと女神像だけは、綺麗にされてるな。

 あの女神像、多分ガイアだろう。


 随分と信仰心の厚いギルドなんだな。

 ……いや、アサシンギルドだからこそ、神に許しを乞うてるのかも。



「スフィア。階段は?」

『ガイアの像の裏です』



 あそこか。


 奇襲に警戒しつつ、ガイアの像に近づく。

 特に何かを仕掛けてくる気配はない。スフィアが空間にスキャンを掛けているが、罠がある様子もない。


 なんか……返って不気味だ。


 像の後ろに回り込み、スフィアの指示通りレンガブロックの数箇所を脚でノック。

 レンガの形がカタカタと変わっていき、地下へと続く階段が現れた。



「ここが……不気味だね」

『ご安心を、ご主人様。ご主人様を仇なすものは、私達が滅ぼします』



 スフィアの言葉に、みんなが頷く。

 そうだ。俺は1人じゃない。みんながいる。

 だから、大丈夫だ。



「……って、ここフェンじゃ入れなくない?」

『『『『あ』』』』



 …………。



「フェン、ここでお留守番で」

『しょんな!?』



 というわけで。

 俺、クレア、スフィア、ライガで階段を降りることに。

 フェンリルは……あとで高級骨付き肉買ってあげよう。


 階段は、大人が2人横にギリギリ並べるほど狭く、天井も低い。


 それに、とてつもなく複雑だ。途中で道が分かれたり、登ったり、扉があったり。

 多分侵入者対策なんだろうけど、ここまでするかね。


 まあ、スフィアのお陰で迷わず進めるけど。


 と、いくつめかわからない分かれ道を右に曲がった所で、スフィアが止まった。



『ご主人様、この扉の先です』

「ここか……」



 ……ダメだ。全く気配を感じない。

 この先、かなりヤバい奴らがいるんだろうな。


 ……ま、どうとでもなるか。


 ドアノブに手を掛け。

 バンッ──! 思い切り開き。


 直後、俺の目の前に無数の刃が向けられた。


 ふむ。数にして20……いや32人か。

 全員覆面してるけど、男も女もいるな。


 とりあえず無抵抗を示すように手を上げた。

 フィンガーサインでスフィアに防御シールドを張らせ、クレアとライガに警戒態勢を取らせた。



「待ってください。俺は話し合いに来ただけです」



 …………。


 無言か。まあそうだよな。いきなり来て話し合いとか、意味がわからないだろうし。


 このままやり合ったら、俺は間違いなくアサシンギルドの敵になる。

 それだけはまずいが……さて、どうするか。


 俺に刃が向けられたことで、クレア達のボルテージも上がってるし。


 うーむ……。






「へぇ。君が幻獣種ファンタズマテイマー? 思ったよりかわいい顔してんねぇ」






 ん?


 集団の奥に目をやる。


 そこにいたのは、腰まで長い金髪に華奢な体つき。

 少女のように見える幼いな顔立ち。

 棒付きのキャンディを舐め、青い瞳で俺を値踏みするように見てくる。


 なるほど、トワさんが言った通りの特徴だ。

 彼が、、……。



「はじめまして、アサシンギルドギルドマスター、サーシャ・オウライズさん」

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